書評・最新書評

犯罪小説集 [著]吉田修一

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2016年12月11日

[ジャンル]社会

表紙画像

■人生の不可解な「真実」に迫る

 犯罪に絡む不幸な人々が織り成す五つの物語。本の帯文に「犯罪によって炙(あぶ)り出される人間の真実」とあるが、それはわかりやすいものではない。それぞれの物語に強く引き込まれて一気読みしてしまうものの、すっきりしない後味を残す。犯行動機だけをとっても簡単に説明がつかず、不透明な膜がかかっているように描かれる。2時間ドラマの最後に来る犯人の告白のような安易な心情吐露ではなく、不可解な「真実」に迫ろうとした犯罪小説だからだろう。
 冒頭の「青田Y字路(あおたのわいじろ)」は10年前に起きた少女失踪事件が未解決のままの田園地帯を舞台にした群像劇。残された家族や友人は罪悪感を抱えながら生きている。そこにあるきっかけで住民の不安に火がつきパニックに陥る。負のエネルギーの噴出をぼうぜんと見つめるしかなくなる作品だ。
 大手運送会社の御曹司が海外カジノでバカラ賭博にのめり込む「百家楽(ばから)餓鬼」。裕福なだけでなく、仕事も妻との関係も順調な彼が内部に抱え込む孤独。その破綻(はたん)は身から出たさびだ。しかし、苦境に陥った後に唯一の親友の幼なじみとの再会で味わうさらなる絶望には、思わず心が震えた。
 奪三振王の経験もある元プロ野球選手が豊かな生活を忘れられず、借金を繰り返す「白球白蛇伝」、過疎から抜け出そうと養蜂で村おこしに励む男が、村の老人たちと仲たがいした末の悲劇「万屋(よろずや)善次郎」。いずれも転落の軌跡で、巻き込まれた周囲の人々や飼い犬まで深い陰影をもって描き出す。
 それぞれの登場人物の内面に接すると、犯罪とは無縁に生きている読者でも、つい自分と似た部分を探し、見つけてしまうかもしれない。これは、犯罪をテーマにした著者のベストセラー小説『悪人』『怒り』にも感じた印象だ。関係ない人まで自然に共感するほど、人生の深いところに届いている肌触りがある。
    ◇
 よしだ・しゅういち 68年生まれ。作家。「パーク・ライフ」で芥川賞、『横道世之介』(柴田錬三郎賞)など。



関連記事

ページトップへ戻る