林業がつくる日本の森林 [著]藤森隆郎

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)  [掲載]2016年12月18日   [ジャンル]社会 

表紙画像 著者:藤森 隆郎  出版社:築地書館

■高い潜在力、育てたい経営力・人

 国土面積の約7割を占める日本の森林。先進国でトップクラスだ。他方、日本の林業は安い外材に太刀打ちできず、補助金で細々と生き延びている。だが、他の先進国では林業が健闘し、ドイツは林業・木材関連産業がGDPの約5%を占め、総雇用者数は自動車産業を上回るという。
 日本の林業もこうした潜在力があるはずなのに、なぜ駄目なのか。そんな疑問に真摯(しんし)に向き合い、日本の林業が進むべき道を指し示すのが本書だ。林業衰退の原因としてよく挙げられる木材価格の低迷、高い人件費、急峻(きゅうしゅん)な地形などの要因を、著者はすべて克服可能として却下する。日本の林業は、やるべきことをやっていないのだ。
 収益が生まれないので森が放置されて荒れ、担い手が減るという悪循環に陥っている。間伐補助金に頼った森林ビジョンなき荒っぽい間伐作業は状況をむしろ悪化させる。やるべきは、林材生産の全過程で生産性を上げ、時代の変化に合った販売戦略を練ることだ。伐採や搬出のための路網の整備、作業効率を上げる機械の開発と現場作業システムの向上、木材流通システムの近代化、製材のマーケティングと販路開拓などだ。要は、これらを成し遂げる経営力が欠けているのだ。
 著者が危機感をもつのが、森林育成のリーダーとなるべき人材の枯渇だ。京都府の日吉町森林組合のような優れた事例もあるが、林業家、森林組合、林野庁などあらゆる分野で現場と理論の両方に通暁した人材が不足しており、それを生み出す体系的な教育システムが日本には存在しない。
 森林の豊かな潜在力が引き出されないのはあまりにもったいない。だが、「林業=補助金による救済」の図式ではジリ貧だ。林業を産業として自立させること、これが山村の所得と雇用を増やし、国土保全とCO2吸収能力の増大につながる。日本の森林・林業を憂えるすべての人々に、本書の一読を薦めたい。
    ◇
 ふじもり・たかお 38年生まれ。国の森林総合研究所を経て気候変動対策の国際機構「IPCC」執筆委員など歴任。

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