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ごはんの時間―井上ひさしがいた風景 [著]井上都

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2016年12月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 食事を通して、自らとふれあった人たちの思い出を綴(つづ)る。父井上ひさし、母、そして夫や肉親、知己の表情や生の瞬間が巧みな筆調で描きだされる。
 怒る井上ひさしがいる。たとえば「クラブハウスサンドイッチ」では、「父と暮(くら)せば」執筆の折、被爆者の声を懸念する著者に、父は「原爆は人類共通の体験なんだ」と顔色を変える。
 「茄子(なす)の味噌(みそ)炒め」では幼年期の記憶が語られ、「こんなもの食えるか」と母に詰めよる父の姿が語られる。茄子の炒め物はまずいと著者は思っていたという。長じて母として茄子の味噌炒めを「うまい」と食べる息子を見て、記憶の中の両親をいじらしく思う、といった具合である。
 徹夜で執筆活動の父の書斎の入り口でクリスティーに没頭した高校時代。夜中の3時、父と食べる夜食のカップ麺。自らが老いた時の本と食についての夢も記される。食卓が親子関係の土台、こまやかな神経が本書全編を駆け抜けている。

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