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欧州複合危機―苦悶するEU、揺れる世界 [著]遠藤乾

[評者]加藤出

[掲載]2016年12月18日

[ジャンル]社会 国際

表紙画像

■生き残るために不可欠な「統合」

 映画「ローマの休日」(1953年)の終盤の記者会見シーンで、アン王女(A・ヘプバーン)は次のような質問を受ける。「欧州連盟は経済問題の解決になりうると思われますか?」
 この映画は、欧州石炭鉄鋼共同体が誕生した時期に制作された。独仏が二度と戦争しないように経済統合を目指す発想は、その後EU(欧州連合)や共通通貨ユーロへと発展していく。
 2011年からの欧州危機を見て「ユーロ崩壊は近い」と報じた米日のメディアは少なからずあった。しかし、本書が指摘するように、長い歳月と莫大(ばくだい)な「政治的資本」がヨーロッパ統合に投入されてきたため、ことはそう単純ではない。故ミッテラン仏大統領は、「何十年、何百年もかけて創るカテドラル(大聖堂)の建築」に統合をなぞらえていたという。
 そうは言っても、今後の展開には不安がある。ドイツが強いる財政緊縮策に不満を募らせる南欧の中間層、難民急増やテロの危機、英国のEU離脱を含むポピュリズムの嵐などによって、EUは「複合危機」に見舞われている。「もうEUは終わったという言説が氾濫(はんらん)する時代」となってきた。
 しかし著者は、EU崩壊は「そう簡単ではない」と見ている。なぜEUは「しぶとく生き残る」のか? それは、一国では保てない「平和・繁栄・権力」を確保する枠組みとして、「EUはエリートのみならず多くの人のあいだで不可欠なものと認識されてもいる」からだ。
 もしドイツで政党政治が極右に乗っ取られたら「EUの崩壊は現実味を帯びる」が、「その域にはまだおよばない」。今回の英国民投票はEUの「崩壊・瓦解(がかい)でなく、再編をもたらすもの」になると予測されている。
 欧州の政治力学は非常に複雑だ。表面的な情報だけでは理解できず、歴史を踏まえた真の姿を見つめる必要がある。来年は欧州で重要な選挙が次々とあり、目が離せない年となるだけに、本書は貴重といえる。
    ◇
 えんどう・けん 66年生まれ。北海道大学教授(国際政治、ヨーロッパ政治)。著書『統合の終焉』など。

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