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ミルワード先生のシェイクスピア講義 [著]ピーター・ミルワード

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2016年12月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■一様でない悲劇のヒロインたち

 2016年はシェークスピアの没後400年にあたる年だった。徳川家康の同時代人(没年がいっしょ)だというのに、なぜシェークスピアはいまも世界中の人々を魅了するのか。
 本書は5人の女性を取り上げる。ジュリエット、オフィーリア、『オセロ』のデズデモーナ、マクベス夫人、『リア王』の三女コーデリア。いずれ劣らぬ悲劇のヒロインである。
 〈ジュリエットの強さ、オフィーリアの脆弱(ぜいじゃく)さ、デズデモーナはあまりに善良であり、マクベス夫人の悪女ぶりといったら!〉とミルワード先生。それは〈女性の強さ、弱さ、善良さ、そして女性特有の闇の部分をさらけ出して見せているのです〉といわれると、ちょいと反発したくなるけれど、喜劇のヒロイン(たとえば『ヴェニスの商人』のポーシャや『お気に召すまま』のロザリンド)がなべて〈ボーイッシュなところがある〉のに比べ、悲劇のヒロインが「女性的」なのは事実かもしれない。
 実際、テキストの分析を通して浮かび上がるヒロイン像の差は「そういえば」な発見に満ちている。同じように非業の死を遂げるにしても、ジュリエットはロミオとの愛を積極果敢な行動によって貫いた。他方、オフィーリアはどこまでも受動的で、そのおしとやかさがハムレットを失望させ怒らせた。だから「尼寺へ行け」であり、だからオフィーリアはジュリエットより孤独だったのだ。
 後半は大学でミルワード先生に師事した翻訳者・橋本修一さんの教養講座で、「聴く芝居」である点でシェークスピアは落語のおもしろさに通じるとか、ロミオとジュリエットが出会ってから死ぬまではたった5日間だったとか、『マクベス』は英国では『四谷怪談』同様たたりのある芝居として知られるとか、興味深い雑学がいっぱい。
 高尚なイメージの戯曲がぐっと身近になる一冊。がぜん現物のシェークスピア作品を読みたくなる。
    ◇
 Peter Milward 25年英国生まれ。上智大学名誉教授。著書に『シェイクスピア劇の名台詞』など。


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