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物語の向こうに時代が見える [著]川本三郎

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2017年01月08日

[ジャンル]文芸 ノンフィクション・評伝

表紙画像

 書評という仕事はなかなか難しい。単なる内容の紹介や要約にとどまっていてはいけない。かと言って評者の見解が全面的に出てもいけない。内容に寄り添いつつ、いかにして評者ならではの「読み」ができるかが問われるのだ。
 本書は、昭和の丸谷才一から平成の桜木紫乃までの小説の書評集である。文章に無駄な主語がなく、接続語も必要最小限に抑えられている。それでいて、各小説が暗黙の前提としている時代の空気感や、舞台となっている地方ならではの土地の匂いまでもが濃密に伝わってくる。どの書評にも小説に熱い共感を寄せる評者の息づかいが文章に乗り移り、そのリズムにいつしか引きこまれてゆく。
 すぐれた書評を時代順に並べるだけで、奥行きのある戦後史が立ち上がってくる。市井の人々の表情がよみがえる。敗戦の前年に生まれ、文章を書くようになって40年を超えた川本三郎の円熟の境地が、行間からかいま見える。

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