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月と太陽の盤―碁盤師・吉井利仙の事件簿/カブールの園 [著]宮内悠介

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2017年01月29日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■推理(ミステリー)も純文学も人類の課題問う

 宮内悠介は、『盤上の夜』で日本SF大賞を受賞し、直木賞の候補にもなる鮮烈なデビューを飾った。その後もジャンルを問わず活躍し、先日は「カブールの園」が芥川賞の候補になり話題を集めたばかりだ。
 今回紹介する2作は、碁盤師が探偵役の連作ミステリー『月と太陽の盤』と、日本人のアイデンティティーを問う純文学の『カブールの園』なので、振れ幅が大きいと思えるかもしれない。ただ根底には、著者が一貫して追究しているテーマが置かれている。エンターテインメントの中に社会問題を織り込んだかと思えば、重厚な物語の中にSFやミステリーのエッセンスを忍ばせる守備範囲の広さを是非(ぜひ)とも楽しんで欲しい。
 『月と太陽の盤』の表題作は、タイトル戦の当日、会場内の坪庭で棋士の死体が発見され、3人の容疑者の中から犯人を絞り込む正統的な犯人当てである。収録の6作は、謎解き重視の本格推理が中心だが、グアテマラを舞台にした最終話「サンチャゴの浜辺」は、途上国の実情に迫る社会派推理色も強くなっている。
 『カブールの園』の表題作は、世界中の演奏家をクラウドで繋(つな)ぐシステムを開発した日系3世の女性レイを主人公に、アメリカの日系移民の歴史と悲劇に切り込んでいる。日米どちらの社会と言語に帰属するのかを突き付けられたレイの上の世代の苦悩と、レイが作った国籍も人種も超える可能性があるプログラムを対比させ、日本人とは、日本語とは何かを問い直したところは、SF出身の著者の面目躍如たるところだ。
 誇張した日本人を演じるプロレスラーの姉と暮らす僕を描く「半地下」も、同じ問題を掘り下げていた。
 これまで著者は、民族紛争、人種差別、格差などの国際的な課題を取り上げてきたが、今回の2冊は、現代に近い時代で日本人が関係しているのでより生々しい。それだけに、残酷な物語に込めた著者のメッセージを直視する必要がある。
    ◇
 みやうち・ゆうすけ 79年生まれ。作家。『盤上の夜』(日本SF大賞)『ヨハネスブルグの天使たち』(同特別賞)。

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