ウィリアム・モリスの遺したもの―デザイン・社会主義・手しごと・文学 [著]川端康雄

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)  [掲載]2017年02月05日   [ジャンル]人文 アート・ファッション・芸能 

表紙画像 著者:川端 康雄  出版社:岩波書店

 草花など自然の風物を配した「モリス風」プリントデザインは今もインテリア用品等でよく見る。だが、生みの親のモリス自身が注目される機会は減った。
 デザイン工房運営の傍ら文芸創作を手掛け、政治と芸術を架橋する独特の社会主義者としても活動した多才の人は、しかし、過去に葬られるべきではない。本書はその影響が途絶えず続いてきた軌跡を辿(たど)る。たとえばトールキンの『指輪物語』はモリスの散文作品に感化されている。日本でも宮沢賢治の「農民芸術概論」は「生活の芸術化」の思想を受け継ぐものだった。
 そして「理想の書物」を追求したケルムスコット・プレスの出版活動の収支がバランスしていた事実を示し、採算度外視の美術品しか作れなかったとする後世のモリス評に反論する著者の旺盛な検証力は印象に残った。現実に疲れ、理想を手放しがちな現代社会に、理想と現実の両立を目指したモリス再評価の必要を静かに、それでいて力強く訴える。


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