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洞窟ばか―すきあらば、前人未踏の洞窟探検 [著]吉田勝次

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2017年02月19日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■底もゴールもない未知への挑戦

 運命の力が作用して、なるべくして洞窟探検家になった「俺」は高校を辞めるまでは無謀なアウトロー的人間であり、直感に従った行動で危険な目にも遭うが、彼を導くことになる運命は時に試練を与えながら彼の肉体と精神を強固なものに鍛え上げ、洞窟探検家としての不屈の人格を自力と他力の両輪に噛(か)み合わせながら、未知の驚異の世界の入り口へと読者を誘う。
 その探検の過程にはハラハラドキドキ。本書の描写がコントロールされた感情に裏付けされているように、洞窟内での行動は常に冷静さが求められる。
 彼の人生は一見、衝動的で向こう見ずに思えるが、実は高所恐怖症で闇を恐れる。その性格は洞窟探検家に向いていないように思えるのだが、だからこそ、未踏の未知の風景を現実の領域に取り込み、とんでもない危険に挑戦してしまうものの、感覚と理性のバランスよく常に無事に帰還するのである。
 何百メートルもある深くて暗い洞窟の底で数人の仲間と数日間滞在するそのノウハウは、その都度考案されるが、下手をすると命の危険にさらされる。小さい岩の裂け目や小さい穴の向こうにどんな架空の世界が現出するか、やってみないとわからない。そんな幻想を現実のものに変えてしまった時の感動は当人にしかわからない。洞窟内での距離も底もゴールもない結果も想定できない世界に一生を捧げるその情熱とエネルギーの源泉は、ただただ未知への挑戦以外にはない。
 そんな彼の生き方に賛同し、何のためでもなく、洞窟のためだけに生きたいと集まってくる者の中には、夢の中で神に「洞窟探検家になりなさい!」と啓示を受けたという者さえいる。
 ジュール・ベルヌの「地底旅行」、地球空洞説、〈アリスのうさぎ穴〉を創造させた洞窟は、その彼方(かなた)に現実を架空化させる驚くべき未知と秘密の世界が隠されているかも知れないと思うと、ひとり高揚する。
    ◇
 よしだ・かつじ 66年生まれ。20代後半から洞窟探検を始め、国内外1千以上に入ったプロガイド。

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