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マティスとルオー 友情の手紙 [編]ジャクリーヌ・マンク

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2017年02月26日

[ジャンル]歴史 アート・ファッション・芸能

表紙画像

■間柄示す、彩り豊かな言葉の橋

 マティスもルオーも画家なのだから、後世の受け手はまずは作品だけ観(み)ていればよい、とも言える。けれど、この書簡集に触れた結果、少なくとも私にとっては、それぞれの絵を思い浮かべるときの歓(よろこ)びはさらに増したと打ち明けたい。本書に収められた書簡は、1895年の出会いから1953年南仏での最後の会見までの、半世紀以上にわたる交流をたどる。
 二人はパリ国立美術学校のギュスターヴ・モロー教室で出会う。それぞれ絵画表現は異なるが、出発点には、教室での経験の共有があった。恩師モローに対する敬愛の念も、晩年まで分かち合う。モローは方法を押しつけず、学生たちが自分自身を発見するように促したという。その自由な気風が、集う人々の可能性を開花させたのだろう。
 41年、マティスが病を患い手術を受けた後、書簡の往復は増える。その時期のルオーの手紙にも、若い日の思い出はつづられる。「ここでは歯に衣(きぬ)着せずに本当のことを話そう。モロー先生と出会うまで、僕は痩せこけて黙りこくった一匹の狼(おおかみ)だった」。ルオーの手紙には、その画風からはにわかに想像できないような笑い声が宿る。
 別の日の、マティスの手紙には、ルオーのある絵の保管にまつわる話題が登場。「他人には指一本触れさせないよう大切にしまってあり、見るのは僕一人のはずなのに、どうしたことだろう、これまで何人もの人からこの絵の話を聞いた」。文字から伝わる声に、どきどきさせられる。
 画商との駆け引き、贋作(がんさく)騒動、家族のこと、二人が晩年に見いだした「聖なる芸術」というテーマ。それほど親しい間柄だったと思われていなかった画家たちの間に、こんなにも彩り豊かな言葉の橋が架けられていたとは驚きだ。時期によって手紙の往復には濃淡がある。文字にされることはほんの一部分。書き切れないところがいい。それこそ書簡の魅力なのだから。
    ◇
 Henri Matisse 1869−1954/Georges Rouault 1871−1958/Jacqueline Munck パリ市立近代美術館学芸部長

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