脳はなぜ都合よく記憶するのか―記憶科学が教える脳と人間の不思議 [著]ジュリア・ショウ

[評者]円城塔  (作家)  [掲載]2017年03月05日   [ジャンル]医学・福祉 

表紙画像 著者:ジュリア・ショウ、服部 由美  出版社:講談社

■あなたの思い出、本物ですか?

 人間誰しも、自分の記憶力に自信を持っているものだ。メモなんて不要だと思いがちだし、自分の意見はずっと一貫しているとつい考える。
 ここで、どうしてそう信じられるのかと問われると、意外に返答に困ったりする。だって、そう覚えているから覚えている。あるいは、間違いではないと知っているから間違いない。いや、鮮明に記憶しているからには真実であるに違いない。これほどの細部にいたるまで詳細に思い出せる以上、この記憶は本物であるに違いないのだ。
 記憶が正確であるとする判断にその鮮明さは利用できない。近年の研究により、人は偽の記憶を鮮明に作りだすことが知られているからだ。さらには、それが嘘(うそ)の記憶であると理解してなお、鮮明に思い出すことができることがわかってきている。
 著者のジュリア・ショウは、記憶の研究者であり、人に偽の記憶を植えつける実験を行っている。自分が関係したことのない犯罪行為や実際には経験したことのない、強い印象をともなうできごとを、思い出させることはできるだろうか。
 著者によれば、慎重に設計された実験によって、被験者の七〇パーセントにその種の偽記憶を持たせることに成功している。
 鍵は、その偽物の光景を被験者に、繰り返し想像させることであるらしい。細部を想像していくことで偽の記憶は鮮明になり、ついには疑いなく信じこむまでにいたる。
 自分の研究を交えつつ、近年の記憶に関する研究を手際よくまとめた本書は、人間の記憶がいかにいいかげんであり、たやすく操作されうるものであるかを教えてくれる。
 本書を読み終わったあとでは、自分の記憶の大半はつくられたものなのではないかと不安になっているはずである。
 問題はその不安さえ、あっという間に忘れさってしまうことかもしれない。
    ◇
 Julia Shaw 87年ドイツ生まれ。英ロンドンサウスバンク大学講師。犯罪者の更生プログラムにも関わる。

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