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自由貿易は私たちを幸せにするのか? [著]上村雄彦、首藤信彦、内田聖子ほか

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年03月12日

[ジャンル]経済

表紙画像

■多国籍企業だけ利するTPP

 政府は、TPPが貿易自由化により国民に成長と雇用増加をもたらすと喧伝(けんでん)してきた。負の影響は農業に限定されるとし、どう保護/開放すべきかにもっぱら焦点が当てられてきた。
 しかし実のところ、農業をはじめとする「モノの貿易」は、TPP協定のほんの一部にすぎない。本書は、全編を通じてTPPの本質が、多国籍企業の投資自由化にあると鋭く指摘する。多国籍企業の投資を妨げる障壁、それは貿易相手国の税制であり、国民の健康、安全、環境を守る規制であり、あるいは独自のビジネス慣行だったりする。これらを除去し、多国籍企業の収益最大化への道を敷き詰めることこそ、TPPの最大の眼目である。
 多国籍企業の権益はTPPを通じて強化される。経済の主戦場は、すでにモノからサービスへ、さらには知的財産などの無形資産に移行している。例えば、医薬品に関する知的所有権保護の強化で多国籍企業の収益は底上げされる一方、それによるコスト増加は、国民の医療費に転嫁される。極めつきは、「ISDS(国家と投資家の間の紛争解決)条項」だ。これは、自国民の健康・安全、あるいは環境保護のため多国籍企業を規制した場合、彼らが「損失を被った」として当該国政府を訴えられる制度だ。本書は、日本ではほとんど報道されてこなかったTPPのこうした本質に、私たちの目を向けさせてくれる。
 本書が採用するタフツ大学経済モデルの示す試算結果は、衝撃的だ。日米両国とも、TPPによってマイナス成長、雇用減、そして労働分配率の低下が生じるというのだ。これは、「TPPは多国籍企業のためであって国民のためにならない」と警告する米国のノーベル経済学者スティグリッツ氏の主張とも筋道が合う。TPPは経済好影響どころか、負の影響をもたらすのだ。我々は少なくとも、こうした論点を知悉(ちしつ)した上でTPPを論じるべきではないだろうか。
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 うえむら・たけひこ 国際政治学者/すとう・のぶひこ 同/うちだ・しょうこ NPO法人PARC共同代表

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