狩人の悪夢 [著]有栖川有栖

[評者]末國善己 (文芸評論家)  [掲載]2017年03月12日   [ジャンル]文芸 

表紙画像 著者:有栖川 有栖  出版社:KADOKAWA

■謎解きと人間ドラマ美しく融合

 犯罪社会学者の火村英生と著者と同名のミステリー作家(通称アリス)が、難事件に挑む人気シリーズの最新作は、著者の作品の中でも屈指の完成度である。
 アリスは、ホラー作家の白布施に誘われ、京都府亀岡市にある白布施の家を訪ねる。翌日、白布施のアシスタントで、急死した渡瀬が住んでいた家で、首に矢が刺さり右手首が切断された女の死体が見つかる。現場には、犯人のものらしき血の手形も残されていた。
 論理性を重視する本格ミステリーでは、警察の介入を排し、名探偵が活躍しやすい環境を整えるため、絶海の孤島や吹雪の山荘が物語の舞台に選ばれることがある。落雷による倒木で道が寸断され、容疑者が現場近くにいた6人に限られる本書も、このパターンを踏襲しているように思える。
 ところが火村による謎解きが始まると、本格ミステリーのお約束に見えた倒木が、実は事件解決の重要な鍵だったと明かされるので衝撃が大きい。それだけでなく、なぜ被害者の手は切断されたのか? 犯人が現場に手形を残した目的は?といった不可解な要素を合理的に説明することで、容疑者の中から犯人になり得ない人物を除外していき、唯一絶対の真相を導き出すプロセスは、数学の証明問題のような美しさがある。
 火村&アリスシリーズの前作『鍵の掛かった男』では、アリスが地道な調査で被害者の謎めいた人生を調べた。本書でも、悪夢ばかり見ていたという渡瀬の過去、渡瀬と被害者の繋(つな)がりが伏せられ、殺人事件の謎が解かれるにつれ、渡瀬が背負っていた苦悩が浮かび上がる構図になっている。
 その意味で本書は、『鍵の掛かった男』の手法を発展させ、謎解きの面白さと人間ドラマをさらに高い次元で融合させたといえる。
 長く本格ミステリーは、読者を欺くゲーム小説で、登場人物は内面性を欠いていると評されてきた。本書は、こうした批判に対する著者の回答かもしれない。
    ◇
 ありすがわ・ありす 59年生まれ。作家。『マレー鉄道の謎』(日本推理作家協会賞)『女王国の城』など著書多数。

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狩人の悪夢

著者:有栖川 有栖/ 出版社:KADOKAWA/ 発売時期: 2017年01月






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