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小説ライムライト―チャップリンの映画世界 [著]C・チャップリン、D・ロビンソン

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2017年03月12日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■人生の断面を見せ、物語は続く

 ひとりの女が自殺未遂を起こすところからこの物語は始まる。この不幸なバレリーナの病む魂と肉体を救った落ち目の老道化師との間で物語が醸成されていく。全ての物語には始まりと終わりがあるが実人生は誕生から始まって連綿と流れる時間の中を運命づけられた死に向かう。小説はそんな人生を輪切りにして複数の物語を創作していく。
 「ライムライト」もある人生の流れを切断したその断面を見せる物語だ。
 本書を読む前に僕は映画「ライムライト」を観(み)た。小説はそのまま映画の台本になるが、小説の地の部分は説明的(情景や内面描写)。映画では言葉に代わって映像それ自体が想像力と感性を喚起させ芸術表現を行う。
 書評はしばしば、物語を語る場合、結末は隠蔽(いんぺい)して語らないのが暗黙のルールになっているが、無視しよう。この物語の主題である愛と死と美と芸の結晶がラストシーンに集約されている。死を間近にした老道化師に心底惚(ほ)れ抜いた美しい新人のバレリーナを愛しながらも、彼女に恋心を抱く若い作曲家に彼女を譲ろうとする屈折した自己憐憫(れんびん)、この辺りは映画が小説を超えている。
 物語の最後に、女は一世一代の舞台を見せるが、彼女の出演前に舞台から客席に落ちて瀕死(ひんし)の重傷を負った老道化師は、舞台の袖から踊る彼女の姿を眼(め)に焼きつけながら静かに息を引き取る。そんなことも知らない彼女は愛と歓喜の中で美しい女神と化して踊り続ける。
 物語はここで終わるが、小説の読者や映画観賞者はこの後に続く物語を想像しないわけにはいかない。ひとつの物語が終わった瞬間から次の物語が始まる。物語は常に輪廻(りんね)して決して終わらない。女の運命はそのまま小説の始まりに再び転生する予感をはらんでいる。余談になるがラスト近くのチャップリンとキートンの競演は、映画史に残る名場面である。
    ◇
 Charles Chaplin 1889〜1977年。俳優、監督、プロデューサー▽David Robinson 30年生まれ。映画評論家。

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