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クラウド時代の思考術―Googleが教えてくれないただひとつのこと [著]ウィリアム・パウンドストーン

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2017年03月19日

[ジャンル]経済 IT・コンピューター

表紙画像

■適切な「検索」、知識・能力が必要

 アメリカ人、とくにミレニアル世代がどんどんバカになっている。いや、ぼくが言っているのではない、この本にそう書いてあるのだ。著者は高名な科学ライター、彼自身の調査を含む多くのデータにもとづいての結論だ。説得力は高い。
 キーワードのひとつは、ダニング=クルーガー効果。能力の低い人ほど自分を過大評価するという現象で、アメリカの心理学者が1999年に発見した。
 インターネットがこの効果を増幅する。ネットで検索すれば情報は簡単に手に入るから、誰でもたくさん情報を集めて勉強したような気になる。自分は物知りだという自己認識が、ますます肥大する。
 だが、それは錯覚だ、と著者は言う。適切な検索には相応の知識とリテラシーを必要とする。これらの低い人がいくら検索をしても、偏向した自分の意見を補強する材料を手に入れるだけだ。ネット検索は悪循環をさらに悪化させる悪魔の道具でしかない。
 本書では直接触れられていないが、2016年のトランプ現象を予測する事柄もあちこちに顔を出す。たとえば、アメリカとメキシコの国境に造る壁の効果や費用についての見積もりは、知識がない人ほど楽観的だった。
 厄介なことに、知識があれば事足れりというわけではない。地球温暖化のように複雑な現象になると、むしろ科学的知識が豊富な人ほど、自分の政治イデオロギーに適した解釈を下す傾向が強い。知識がイデオロギーを補強する役割しか果たさなくなるのだ。
 著者は対応策として、新聞やテレビなど、プロによって編集された従来型マスメディアの重要性を強調する。読者はそれを通して自分が興味のない領域の情報にも触れるからだ。処方箋(せん)としてはいささか頼りない印象がぬぐえないが、インターネットというこの荒々しい暴力的技術を使いこなすためには、一読しておくべき書である。
    ◇
 William Poundstone 55年生まれ。ノンフィクション作家。著書に『囚人のジレンマ』『大暴露』など。

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