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ポピュリズムとは何か―民主主義の敵か、改革の希望か [著]水島治郎

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2017年03月19日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■世界で同時並行する現象を分析

 政治学の世界というのは細かな分業から成り立っている。政治史の分野だけでも欧州や米国、日本などに分かれ、さらに欧州の中で英国やフランス、ドイツなどに分かれる。各国の専門家はひたすら史料にあたりつつ、それぞれの国の歴史を研究するわけだ。
 著者の専門はオランダ政治史である。こういう場合、他国のことに話が及ぶと「私は素人なのでよくわかりません」と答えるのが学界のエチケットとされている。だが著者は、本書であえて蛮勇を振るっている。専門のオランダを含む欧州全体ばかりか、南北アメリカや日本のポピュリズムまでもが広く対象とされているからだ。
 その蛮勇は、高く評価されるべきである。政治学という学問は、専門性の高い職業人を養成する法学や医学と比べて、一般市民の日常に深く関わっている。ゆえにポピュリズムのような現代の世界で同時並行的に起こっている政治現象に対しては、タコツボ化した学界の現状に風穴を開け、多くの人々が不安を感じている現象の本質をわかりやすく分析することもまた、政治学者にとっての重要な使命と言えるのである。
 この点で著者は、正真正銘の政治学者である。著者は専門の研究によりつつ、民主主義とポピュリズムの複雑な関係を丁寧に分析している。ポピュリズムは人民主権や多数決制を擁護する点では民主主義の発展を促すように見えながら、代表制で選ばれる既成政党を批判し、カリスマ的なリーダーを待望する点で民主主義の発展を阻害する面も併せ持っている。
 本書は日本の例として橋下徹に言及しているが、私はむしろ大正デモクラシーの中から出てきた昭和の超国家主義を思い出した。同時期にドイツでも、ワイマール憲法が定めた民主主義の中からナチズムが台頭してくる。こうした全体主義とポピュリズムの関係についても、著者の見方を知りたいと思った。
    ◇
 みずしま・じろう 67年生まれ。千葉大学教授(オランダ政治史、比較政治)。『戦後オランダの政治構造』など。

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