ゴジラ幻論―日本産怪獣類の一般と個別の博物誌 [著]倉谷滋

[評者]円城塔  (作家)  [掲載]2017年03月19日   [ジャンル]科学・生物 

表紙画像 著者:倉谷 滋  出版社:工作舎

■フィクションが導く科学の世界

 ゴジラを中心に、怪獣を形態学的、進化発生生物学的に考察する本である。
 形態学という言葉はあまり耳にしたことがないかもしれない。おおざっぱにいってしまえば、生き物の体をじっくりと観察することから世界観を展開していく学問である。生物学よりも博物学の響きが強いかもしれない。
 二十世紀後半の分子生物学の隆盛以降、一時期影の薄くなった形態学だが、分子レベルの研究が進んだ結果、進化発生生物学という形で研究の最前線に躍り出ている。
 現代の生物学における生き物は、種として進化を経たものであり、個体として発生、成長したものであり、その背後には分子の働きがある。
 つまり、そこに生き物がいるならば、その生き物には進化上の先祖がいて、個体としての親がいるはずであり、物理法則に従って活動しているはずである。
 これが、生き物はそのあたりから湧いてでてくると考えられた古代と現代の違いであり、現代人たる我々は、街中で怪獣を見かけた場合、こいつの進化上の先祖はなんなのか、と考えることになるわけである。
 怪獣はフィクションだからそんなことを真面目に考える必要はないとしてしまうのはフィクションを甘く見ると同時に科学の力を過小評価しているところがあって、科学的な検討に耐えうるフィクション、フィクションを検討できる科学こそが本物なのではないか。
 昨年公開された「シン・ゴジラ」には様々な比喩が読み取れたが、しかしやっぱり怪獣はまず何かの象徴であるより先に生き物である。そこを歩いているわけだから。
 本書では著者が形態学を専門にするようになった経緯や育ち、考え方なども怪獣の各論の中にでてきて親しみやすい。同著者による『新版・動物進化形態学』『分節幻想』といった強面(こわもて)の専門書への手がかりにもなるはずである。
    ◇
 くらたに・しげる 58年生まれ。理化学研究所主任研究員。研究テーマは「脊椎(せきつい)動物頭部の起源と進化」など。

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