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クラウドガール [著]金原ひとみ/私をくいとめて [著]綿矢りさ

[評者]斎藤美奈子 (文芸評論家)

[掲載]2017年04月02日

[ジャンル]人文

表紙画像

■自立を模索する女性たちの今

 金原ひとみと綿矢りさが芥川賞を同時受賞したのは2004年。当時、金原は20歳、綿矢は19歳。そして13年。30代になった二人が昨年本紙に連載した小説がこの2作である。
 金原ひとみ『クラウドガール』は姉妹の物語である。留学先から帰国して大学に通う姉の理有(りう)は20歳。高校生の妹・杏(あん)は16歳。父母は離婚しており、母は2年前に急死した。
 〈私たちは、二人で生きてきた。ママが死んでからずっと。いや、パパとママが離婚してから。いや、病院で産声をあげたばかりの杏を目一杯抱きしめ、赤ちゃんを潰さないでねと看護師さんに笑われたあの日から。私たちは二人で、手を取り合って生きてきた〉
 几帳面(きちょうめん)で理性的な姉と、刹那(せつな)的で自由奔放な妹。作家だった母の生前から姉は家事や雑事一切を担当し、母の性格を引き継いだような妹は姉に頼りきっていた。そんな二人は母の死にまつわる大きなわだかまりを抱えていた。ラスト近くで二人はついにブチ切れる。
 〈私は理有ちゃんと今まで通り仲良くしていきたい〉〈今まで通り面倒見てください、尻拭いしてくださいってこと?〉
 おいおい、大丈夫か?
 一方、綿矢りさ『私をくいとめて』の語り手・みつ子はもうすぐ33歳になる独身女子だ。
 〈一人で生き続けてゆくことになんの抵抗もない、と思っていた〉し、〈男性も家庭も、もはや私には遠い存在になっている〉。そんな彼女はしかし、脳内にひとりの人物を住まわせていた。彼女がAと呼ぶ理想の恋人に近い人物だ。〈そろそろ眠りましょうか。夜ふかしはあなたが思っているよりもずっと、身体に毒ですよ〉などと優しく語りかけてくるA。
 ちょっとちょっとマジ?
 読者の心配をよそに、みつ子は淡々と日常生活を送り、職場で知り合った同い年の男子といい感じになるのだが……。
 ざっくりいえば、どちらも女性の成長譚(たん)、あるいは自立譚である。でもそれは20世紀の自立譚とは微妙に異なる。
 文学は常に孤独を描いてきたともいえるけど、情報機器が身体の一部になってしまった現代社会で自立するのは簡単ではない。〈私たちは巨大なデータベースと共に生きていて、もはやそこから決定的な嘘(うそ)も、決定的な真実も捉えることはできない〉(『クラウドガール』)からだ。
 ほら、あなたもスマホに頼っていたり、縛られたりしてません? 自分の分身のような存在と彼女らはどうやって決別し、どんな形で社会との折り合いをつけるのか。作風はちがえど、2冊とも明日が見えない若い人たちを励ます物語である。
    ◇
 かねはら・ひとみ 83年生まれ。デビュー作『蛇にピアス』で芥川賞、『マザーズ』でドゥマゴ文学賞。
    *
 わたや・りさ 84年生まれ。『蹴りたい背中』で芥川賞、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞。

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