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福祉政治史 格差に抗するデモクラシー [著]田中拓道

[評者]齋藤純一(早大教授)

[掲載]2017年04月02日

[ジャンル]政治

表紙画像

■誰の意思反映か、分かれる政策

 グローバル化、巨額の財政赤字、そして少子化という状況を考えると、福祉の後退は避けがたいようにも見える。一方で、中低所得者がいだく先行きへの不安は、各地でポピュリズムの動きを加速させている。
 本書は、百年におよぶ長期的な視点から福祉国家の形成と変容を手堅く分析するが、注目したいのは、近年、先進諸国がおしなべて福祉の縮減に向かってきたわけではないという指摘である。
 グローバル化に加え、ポスト工業化、家族の変容といった共通の問題に直面しながらも、先進諸国はいまかなり異なった対応を見せている。大別すれば、税や社会保険料を引き下げ、福祉をさらに削減していく新自由主義的な対応と、若年層・女性・失業者・非正規労働者などが、就労を一律に強制されることなく、社会に参入できる多様なルートを開く対応である。
 著者は、こうした福祉・雇用政策の分岐は、政策形成に誰の意思が反映されるかの違いによって説明できる、とする。アメリカのように一握りの富裕層の政治的影響力が増大し、トップダウン型の再編が推進されれば前者に傾きやすく、逆に、フランスやオランダのように、貧困やジェンダー格差などの問題に取り組んできた運動や団体の知見が政策形成に反映されれば、後者の対応が導かれる。
 福祉国家がどう再編されるかは、デモクラシーのあり方(政治的な機会がどう開かれるか)に大きく依存する。これが本書のメッセージである。
 日本の福祉は一貫して低いレベルにあり、近年の政策も、正規と非正規雇用、男性と女性、都市部と地方との格差を拡(ひろ)げ、不利な立場にある者が被りやすいリスクに対処できずにいる。
 トップダウン型の「決められる政治」に期待を託すのとは違った選択肢も現にあるとする本書の議論は、八方塞がりのようにも見える現状の打開を探るうえで貴重な視点を提示する。
    ◇
 たなか・たくじ 71年生まれ。一橋大学教授(政治理論、比較政治)。『貧困と共和国』『よい社会の探求』など。

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