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愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界 [著]サイ・モンゴメリー

[評者]宮田珠己(エッセイスト)

[掲載]2017年04月02日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■タコとの交流で知る驚きの生態

 タコには人を見分けることができるらしい。それどころか、好きな人間には積極的に腕を伸ばしてからませるというから驚きだ。
 本書はナチュラリストである著者が水族館のタコたちとの交流を描いたノンフィクション。
 タコに興味を持ち水族館を訪れた著者は、すぐに彼らに気に入られ、腕をからめあう仲になる。タコの吸盤には味覚があり、触れることで相手の味がわかるのだ。冒頭からくりかえし描かれるその情景は、とても官能的。吸盤が著者の腕に吸い付くさまは、さながら恋人同士のハグのようだ。タコとそんなふうに情熱的かつ個別に仲良くなれるとは知らなかった。
 もともとタコは知能が高いといわれ、好奇心も旺盛な生き物である。夜中に水槽を抜け出して他の水槽の魚を食べにいき、朝にはしれっと自分の水槽に戻っていたりするという。水槽に鍵をかけても簡単なものは開けてしまうし、複雑ないくつもの作業を同時にこなすことも得意だ。
 本書には主に4匹のタコが登場する。個体ごとにまったく性格が異なることに驚くが、それどころか実は腕ごとにニューロンが集中した脳のような器官があり、一本一本の腕が独自に行動している可能性も示唆されている。内気な性格の腕や大胆な腕があると主張する研究者もいるそうだ。
 なんという奇妙な生き物だろう。いったいどんなふうに思考しているのか。
 本書のテーマはまさにそこであり、著者は新しい知性の可能性を見るのだが、たとえ知性の形が違おうとも、老衰で死に瀕(ひん)したタコが最後の力をふりしぼって著者と飼育員に腕を伸ばす姿には、心揺さぶられずにいられない。ここまで人間とタコが共感できるとは。
 読むほどにタコが愛すべき生きものに思え、水族館に行きたくなった。
 どんな生物にも、その内面にまで踏み込んで寄り添おうとする水族館スタッフたちの姿も素晴らしい。
    ◇
 Sy Montgomery 米国の作家、ナチュラリスト。著書に『幸福の豚 クリストファー・ホグウッドの贈り物』。

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