書評・最新書評

なぜペニスはそんな形なのか―ヒトについての不謹慎で真面目な科学 [著]ジェシー・ベリング

[評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)

[掲載]2017年04月09日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■問いにタブーなし、身近で軽妙

 タイトルからして思わずギョッとするかもしれないが、これほど画期的な本はあまりない。だれもが一度は疑問を持ちながら、ちゃんと考えたことも、だれかに聞いてみたこともない。それほどに普遍的で身近な下半身の話題について、最新の学説と自説の展開を、ユーモアを交えて行ってくれているのがこの本だ。
 問いのひとつひとつは、もしかしたら不快に思う人がいるかもしれない。だからこそ「タブー」とされてきたわけだが、実験心理学者でもあり、ゲイでもあることを公表している著者にタブーはない。
 ペニスはどうしてぶらさがっているのか。なぜあんな形なのか。そもそも子孫を残すためにもっとも大事なものをおさめている陰嚢(いんのう)が、どうして無防備な状態で、しかもアシンメトリーにぶらさがっているのか。進化のためを考えるなら、なぜ人類は早漏ではないのか(遅漏な動物は攻撃性が高いのはなぜか)。人間以外の動物がほとんどしないマスターベーションとはなにか。足フェチってなんなのか。失恋とはなにか。同性愛をどう解釈したらよいのか。自殺とはなにか。
 この本の優れたところは、こうした「問い」を立てる勇気をもったこと、そしてその問いに対して過去どういう考察と実験が行われ、なにがわかったとされてきたかという先行研究をわかりやすく紹介してくれているところだ。そして著者の考えがそこに添えられる。いまのところこれが暫定的に正しいと思われていますが、あなたはどう思いますか、と喫茶店で問いかけられているよう。読みながら笑えて、真剣に考えられて、身近なのに知らないことだらけの話題。コラム形式の33編というサイズも読みやすく、翻訳も軽妙で見事。「科学の世界には聖なるものなどなかったし、問いが馬鹿げていることも、してはならない問いというものもなかった」と著者はいう。この科学への敬意の姿勢が気持ちいい。
    ◇
 Jesse Bering 75年米国生まれ。実験心理学者。ニュージーランド・オタゴ大学准教授。『性倒錯者』など。

関連記事

ページトップへ戻る