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われらの子ども―米国における機会格差の拡大 [著]ロバート・D・パットナム

[評者]齋藤純一(早大教授)

[掲載]2017年04月23日

[ジャンル]歴史 社会

表紙画像

■公正に才能生かすため探求迫る

 「二つのアメリカ」への分断。本書が克明に描き出すのは、アメリカン・ドリームが過去のものとなりつつある現状である。
 「二つの」社会階級は、親が大卒か高卒かで分けられる。本書の魅力は、それぞれの社会階級に属する若者たちへのインタビューをもとに、一人称で語られる「二つの」物語を対比していることにある。
 たとえば、湖に臨む瀟洒(しょうしゃ)な家に育ち、ロースクールを目指すチェルシーと、服役中の父をもち薬物に依存するデヴィッド。2人とも著者の故郷、オハイオ州ポートクリントンに育ったが、互いの溝は絶望的に深い。
 本書は、これらが特殊例にとどまらず全米に一般化できることを、計量分析によって実証する。周到な研究が明らかにするのは、昂進(こうしん)する格差が、誰と結婚してどこに住むか、子どもをどのように育て、教育するか、誰から助言を得られるかといった見通しにおいて、若者が分け隔てられている現実である。
 著者が高校を卒業した半世紀前と比べ、自らの努力で上昇移動できる途(みち)は確実に塞がってきている。資本形成の機会は、経済資本はもとより人的資本(教育・訓練)、文化資本(ライフスタイル)、社会関係資本(ネットワーク)のどれをとっても一方には開かれ、他方には閉じられつつある。
 機会の格差は、多様な才能を生かせずに社会に経済的な損失をもたらし、政治的な影響力を偏ったものにしてデモクラシーをゆがめ、近隣の相互不信を強めてコミュニティーを荒廃させる。ここで著者が喚起するのは、なおも多くのアメリカ人が支持する「機会の平等」の理念である。
 日本も、格差が世代を越えて継承される段階に入った。機会の平等を単に形式的なものと解すれば、「二つの」社会への分断は避けようがない。機会への公正なアクセスを若者に開くことができるか。本書には、その探求を迫る力がある。
    ◇
 Robert D.Putnam 41年生まれ。米ハーバード大学教授。編著書に『流動化する民主主義』。



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