書評・最新書評

ザップル・レコード興亡記―伝説のビートルズ・レーベルの真実 [著]バリー・マイルズ

[評者]細野晴臣(音楽家)

[掲載]2017年04月23日

[ジャンル]人文

表紙画像

■失敗した「実験的試み」の大衆化

 ビートルズの影に奇妙なレーベルが存在していたことはあまり知られていない。ビートルズが君臨していた1960年代、実験的な音楽を紹介する目的で設立された「ザップル・レコード」である。その詳細が本書によって初めて明かされることとなった。
 そもそもザップル設立にはポール・マッカートニーが関わっていた。実験的な試みが好きなポールは、60年代に活気があった前衛音楽、中でも電子音楽の父と言われるマックス・マシューズや、ジョン・ケージなどに影響されていた。
 ちなみに、マシューズの作品で知られているものに「デイジー・ベル」がある。電子音の声が歌うという画期的な作品で、ポールの「ロック魂」がいかに揺さぶられたことか、僕にも想像できる。
 ポールはそんな実験的な試みの大衆化をめざして、友人の著者マイルズに制作を託したのだが、親会社アップル・レコードの方針に合わず、廃止されてしまった。故に、ザップル・レーベルとして発売されたアルバムはジョン・レノンとジョージ・ハリスンの「お遊び」だけであった。
 だが、他にも重要な録音がなされ、アレン・ギンズバーグの「歌」や、チャールズ・ブコウスキーの朗読が残存している。その録音に至る経緯は、本書のもうひとつの魅力でもある。
 ザップルの失敗はアーティストと経営者との軋轢(あつれき)の結果であり、不可能なことがないと思えたビートルズも、実は苦い思いを抱えていたということだ。常に新しいことに挑戦していくという、純粋な意図を踏みにじられたポールは、この後アップルと決別する。
 本書で語られる最も興味深い点は、このポールが実は実験的な音楽家であること、レノンは伝統音楽へ傾倒していたという、世間一般の印象とは異なる対比であろう。同じような轍(てつ)を踏んできた僕も、自分の中にジョンとポールが混在していることを痛感する。
    ◇
 Barry Miles 43年英国生まれ。ザップルの元マネジャー。著書に『ビートルズ・ダイアリー』ほか。

関連記事

ページトップへ戻る