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毒々生物の奇妙な進化 [著]クリスティー・ウィルコックス

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2017年04月23日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■食物連鎖を逆転、特効薬にも

 本書に登場するハワイ大大学院の女性は、海で遊泳中にハコクラゲの大群に刺され、激痛と呼吸困難で溺れかけた。九死に一生を得た彼女はその後、この毒素に強い興味を抱き、クラゲの毒液研究者になってしまったという。
 激痛や死をもたらす毒を持った生物たちには、人の一生を左右するほどの危険な魅力があるらしい。その魅力に取りつかれた一人である米国人生物学者が、読者を奥深い毒の世界にいざなう科学ノンフィクションだ。
 自分の体を張って毒の解明を図る姿がすさまじい。ある昆虫学者が作った「刺されると痛い昆虫」ランキングでは、第1位が南米アマゾンに生息するサシハリアリ。「刺されると数秒で卒倒」「踵(かかと)に三インチ(七〜八センチ)の釘を打って、真っ赤な炭の上を歩くようだ」。読むだけで恐怖に震えてくるが、この学者は、ランキング作成のためアリやハチなど78種に自ら刺されたという。
 研究者たちがここまで毒液に執着するのは、被虐趣味ではないようだ。その理由は、毒液生物が他の種の「進化をも左右する」、自然・生命の神秘といえる存在だからということが読み進めると分かってくる。
 その一例が、貝殻の内に致死性の猛毒を隠し持つイモガイ類。海の中で魚類に食べられる存在だったのに、身を守るための毒を進化させることで魚類を食べる捕食者に。「食物連鎖が逆転した」のだ。
 さらに、生物の毒は人間にとって怖いものだけにとどまらない。毒液の研究が進んだ結果、病気治療に必要な分子的メカニズムの操作に役立つことがわかり、2000年代以降に難病の特効薬が生まれていることも、著者は報告している。
 毒蛇、毒グモなど猛毒生物のスターたちの生態もたくさん出てくる。本書を読めば、怖いもの見たさだけではなく、毒々生物が織り成す豊かな世界に魅了されることは間違いない。
    ◇
 Christie Wilcox ハワイ大学博士研究員(細胞分子生物学)。サイエンスライター、ブロガー。

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