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ルネ・マグリット-国家を背負わされた画家 [著]利根川由奈

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2017年04月30日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■“象徴”は、民族性を嫌悪した

 パイプの絵を描いて「これはパイプではない」と言うマグリットはベルギー人だが、作風からはベルギーの民族性は全く感じられない。同国のボスの絵は民族的幻想的だがマグリットは「私は現実の世界に生きている」と日常の事物を主題にする。そのためにポップアートの祖と位置づけられたりするが、本人はポップアートはダダの二番煎じと否定的意見を述べている。
 「この本はマグリットの作家論ではない」
 本書名『国家を背負わされた画家』からは、かつて日本の国粋主義者横山大観が絵の売り上げで戦闘機を国家に献上したあの一件を想起してしまう。
 「国家を背負わされた画家」とは、ベルギー教育省の文化政策の一環としてマグリットが海外のビエンナーレに作品を出品したり、王立施設の天井画や壁画、王立航空会社のポスターなどの制作に関わったりしたことを指す。だけどマグリットは、過去の作品の焼き直しを反復することで、オリジナルに上手(うま)く肩すかしをくらわせた。
 「これは書評ではない」
 ベルギーを象徴するものが何もないマグリットを、王立美術館館長は「国家の象徴」と名指ししたが、マグリットの嫌悪するものは民族的なもの、広告、装飾芸術と、国家と意見を異にする。実に皮肉なもの。広告と絵画を並行して制作したが、全て生活の一部で国家とは無縁。彼には国家意識はない。ひとりの画家に対する理解と同情を求める教育省の発想には、芸術に対する真の愛情と批評が欠如している。国家は社会的意味において自らを正当化したに過ぎない。
 アメリカでのベルギーの対外文化政策はまるで経済政策だ。買うならベルギーの財団を通して購入して欲しい、と。さらにマグリットの人気に便乗して若手を売り込む……。その結果は教育省のマネジメントの限界の露見で終わる。
 「この画家は国家を背負わない」
    ◇
 とねがわ・ゆうな 85年生まれ。早稲田大学非常勤講師(美術史・文化政策史)。共著に『魅惑のベルギー美術』。

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