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鬼神 [著]矢野隆 / 燕雀の夢 [著]天野純希

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2017年05月07日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■乱世の生き方探し、若者が共感
 
 最近は歴史小説も増えている矢野隆だが、頼光四天王と酒呑童子の戦いを新解釈で描いた『鬼神(おにがみ)』は、デビュー作『蛇衆』を思わせる迫力の伝奇活劇である。
 足柄山で母と暮らす野生児の坂田公時は、亡き父が仕えていた源満仲の子・頼光に誘われ、京に上る。
 その頃、政争の軍資金が必要な藤原道長は、大江山に眠る鉱山に目を付けていた。陰陽師の安倍晴明の助けを借りた道長は、朱天が率いる山の民を大江山から追い出す謀略を進める。
 道長は、権力に従わない者を「鬼」と貶(おとし)め、挑発して戦端を開く大義名分を手にする。この構図は、手段を選ばず資源の獲得に走ったり、テロとの戦いという美名の下で戦争を行ったりする現代の大国と重なる。
 京の権力が及ばない山奥で育ったため朱天の心が分かる公時が、戦争回避の道を模索する展開は、異なる文化、価値観を持つ人々と共存するには何が必要かを問い掛けているのである。

 島津家久を描いた『破天の剣』で中山義秀文学賞を受賞した天野純希の『燕雀(えんじゃく)の夢』は、上杉謙信、織田信長ら名将の父を主人公にした異色の短編集である。
 息子の武田晴信(後の信玄)に追放された信虎が、表舞台に返り咲こうとする「虎は死すとも」は、再チャレンジが難しい現代社会の暗喩に思えた。大国に翻弄(ほんろう)されている松平広忠が、息子の竹千代(後の徳川家康)に平和国家建設の夢を託す「楽土の曙光」、出世のため危険な最前線で戦う豊臣秀吉の父を描く表題作は、弱肉強食の世は果たして正しいのかを突き付けていた。本書の主人公は、現代に似て失敗が許されない乱世を、悩みながら渡っていくので、必ず共感できる人物が見つかるだろう。
 矢野と天野は、共に小説すばる新人賞の出身、キャリア約10年、現在40歳前後の同世代で、現代の若者が感情移入できる歴史ものを書き継いでいる。ますます活躍が期待される2人に、今後も注目して欲しい。
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 やの・たかし 76年生まれ。作家。『戦始末』など
 あまの・すみき 79年生まれ。作家。『蝮の孫』など。

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