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大航海時代の地球見聞録―通解『職方外紀』 [著]ジュリオ・アレーニ、楊廷イン

[評者]宮田珠己(エッセイスト)

[掲載]2017年05月07日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■怪しさあふれる楽しい世界案内

 世界の全体像が見えていなかった時代の地理書は、荒唐無稽で面白い。
 古くは、一本足の人間や胸に穴のあいた種族が登場する中国の『山海経』があり、マルコ・ポーロの『東方見聞録』にも犬の頭をした人間や、象を吊(つ)り上げる巨鳥などの記載がある。今読むと、どれも突っ込みどころ満載でファンタジー小説も顔負けである。
 『職方外紀』は、17世紀の前半に、イエズス会士ジュリオ・アレーニが中国人に向けて書いたもの。大航海時代にヨーロッパにもたらされた新しい知見によってそれまでの情報がアップデートされ、序文を寄せた官僚も〈胸に穴のあいた人や、踵(かかと)が前についている人や、竜王・小人などについては、デタラメであるからのせない〉と、情報の信憑(しんぴょう)性に自信満々だ。
 ところが読んでみると、〈北海の浜に小人国があるという。背の高さは二尺[六四センチ]をこえず、(中略)いつもコウノトリと戦う〉と、否定したばかりの小人が登場していて、思わず笑ってしまった。
 そのほか、100回顔を洗うと老いた顔が若返る泉や、手がカモの足のような海人など、依然として、怪しさ溢(あふ)れる読んで楽しい世界案内となっている。
 一方で、アメリカ大陸の情報が載っているのは画期的だ。〈建てた都は周囲が四八里、地面に建てたのではなく、湖のなかに造った〉はアステカの首都テノチティトランのことだし、〈その習俗には、おおむね文字書籍がなく、縄を結んで識(しるし)とする〉はインカ帝国の記録手段キープのことだろう。情報が新しいぶん、新大陸については意外と正確なのが興味深い。
 〈南アメリカの南部はチカ(智加)といい、すなわち、巨人(長人)の国である。たいへん寒く、人の身長は一丈[三メートル]をこえ、全身はみな毛である〉
 情報は玉石混交。江戸の知識人も読んだらしいが、果たしてどこまで信じただろうか。

 「大航海時代の地球見聞録 通解『職方外紀』」 ジュリオ・アレーニ、楊廷イン〈著〉 齊藤正高訳 原書房 3240円
    ◇
 Giulio Aleni 1582〜1649年。宣教師
 よう・ていいん 1562〜1627年。本書の文章の整理に携わったとされる。

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