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かわうそ堀怪談見習い [著]柴崎友香

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2017年05月07日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 土地には固有の「霊」がある。神武天皇が漂着した伝説がいまも息づく大阪の場合はなおさらそうだ。無数の人々がここで生涯を閉じたばかりか、大坂の陣や太平洋戦争の空襲でも死者があふれた。一見近代化した都市の風景の裏側には、この都市ならではの「霊」が付着しているのだ。
 柴崎友香は大阪の地霊に敏感な作家である。本書は大阪の地霊を、怪談小説という形でよみがえらせる。書名になっている「かわうそ堀」は架空の地名だが、ここにも「水の都」と呼ばれた大阪という土地の匂いが染み込んでいる。
 著者の投影とおぼしき主人公が聞いた、中学生の少女がJR大阪環状線の車内で中年女性と乗り合わせる話はとりわけ印象深い。環状線の駅で降りた女性の後をつけてゆくと、魔界のようなところに行き着く。そこはまるで地図にはない死者の溜(た)まり場のような場所で、向こうからこちらを見られていると感じる。この駅は一体どこだろうか。

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