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ナビラとマララ―「対テロ戦争」に巻き込まれた二人の少女 [著]宮田律

[評者]斎藤美奈子 (文芸評論家)

[掲載]2017年05月14日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■二人の境遇を分けたものは?

 イスラムの女性たちに教育をと訴え、17歳でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユースフザイさんはご存じですよね。2012年、15歳のとき、マララさんは「パキスタン・タリバン運動(TTP)」のメンバーに銃撃され、大きな傷を負った。それでも暴力に屈することなく教育の重要性を訴える彼女の姿は世界中の人々の心を打った。
 では、同じようにイスラムの女性たちに教育を、と訴えたナビラ・レフマンさんはご存じ? マララさんが銃撃されたのと同じ12年、ナビラさんはアメリカの無人機「ドローン」が撃ったミサイルで祖母を失い、自身も大けがを負った。8歳のときだった。
 二人は同じパキスタンの部族地域出身。対テロ戦争の犠牲者という立場もまったく同じ。けれど、ナビラさんのその後は、マララさんとは全然ちがった。ナビラさんは、アメリカの議会で自らの被害を説明し、部族地域でのドローン攻撃を停止するよう求めたが、スピーチを聞きにきた下院議員はたったの5人。
 〈みなさんは不思議に思いませんか?〉と宮田さんは問いかける。マララさんを銃撃したのはアメリカの敵であるTTP。ナビラさんたちを攻撃したのはアメリカのCIA。〈「加害者が誰なのか?」という違いこそが、彼女たちの訴えが世界に届くかどうかを決めているのです〉
 読書対象は小学校高学年以上。これ、9・11以後に生まれた子どもたちのための本なんです。中東の複雑な情勢を理解するのは正直、大人でも難しい。だけど本書はねばり強く説明する。「対テロ戦争」にいたるまでの欧米とイスラム諸国の長い歴史。同時多発テロ、イラク戦争……。
 来日した11歳のナビラさんは語った。「戦争に大金を使うのでしたら、そのお金を教育や学校に使うべきだと思います」。難しいところは飛ばしていいよ。戦争の現実は二人の声から十分に伝わるはずだから。
    ◇
 みやた・おさむ 55年生まれ。現代イスラム研究センター理事長。『イスラムは本当に危ない世界なのか』など。

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