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財政と民主主義―ポピュリズムは債務危機への道か [編著]加藤創太、小林慶一郎

[評者]加藤出 (東短リサーチチーフエコノミスト)

[掲載]2017年05月14日

[ジャンル]政治 経済 社会

表紙画像

■信頼に足る情報発信遅れる日本

 欧米の近年のポピュリズム台頭を嘆く声は我が国にも多い。ポピュリズム支持者たちは都合の良いところしか見ていない点が懸念されるわけだが、これは他人事(ひとごと)ではないだろう。財政上のポピュリズムが世界で最も強いのは日本だからだ。
 本書はこの問題に正面から切り込んだ意欲作である。「日本の財政悪化が主要先進国の中でも突出して進んでしまった理由」は「民主主義のあり方に問題があるのではないか」との危機意識の下、経済学、政治学、行政学の研究者が忌憚(きたん)のない議論を展開している。
 民主主義には、有権者が「合理的な近視眼」に陥る構造がもともと存在している。我々は電気製品の購入時にはその情報を丹念に調べるが、候補者の政策はそこまで調べない。自分の1票で政策が変わることはないため、その時間を節約することは合理的となる。
 また、政府が信頼できなければ、有権者は将来世代に利他的になれない。例えば、幼児の前にマシュマロをひとつ置き、「20分待てたら後でもうひとつあげる」といって行動を観察する実験がある。この結果は、被験者の実験者への信頼度に左右されるという。あとで2個もらえることが信用できないなら、今の1個を食べてしまう方が合理的だ。
 だからこそ多くの先進国は財政の透明性を高めつつ、有権者に信頼に足る情報を伝えるために、政府、政党から独立した機関を設置し、それに今後40〜75年間の財政見通し等を発表させている。日本はそれらの取り組みが異様に遅れていることが本書から伝わる。
 持続可能な社会を築くには、若い世代の意思を反映する選挙制度も必要だ。各世代の平均余命に応じて世代ごとに議席数を配分する「余命投票制」などが提言されている。デフレ脱却や経済成長だけでは財政再建は難しいことも指摘されている。耳に痛い議論であってもタブー視せず取り組むべき段階に来ていることを本書は強く訴えている。
    ◇
 かとう・そうた 東京財団常務理事、国際大教授▽こばやし・けいいちろう 慶応大教授、東京財団上席研究員。

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