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昭和解体―国鉄分割・民営化30年目の真実 [著]牧久

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2017年05月28日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■対立となれあい、戦後の縮図

 本書のタイトルはなぜ「国鉄解体」ではなく、「昭和解体」なのだろう。その思いで読み進むうちに単に日本国有鉄道や国鉄労働組合(国労)の歴史が昭和を代表しているだけでなく、革命の前哨戦のような光景を演じていたからだと気づかされる。
 昭和24(1949)年に公共企業体として発足した日本国有鉄道は、戦後すぐは兵士として徴兵された青年たちや海外からの帰還者などを積極的に雇用した。当初は憲法でスト権は保障されたが、GHQ(連合国軍総司令部)の命令でこのスト権は禁止された。そして過剰な人員の解雇(9万5千人)をめぐっての労使紛争やGHQの介入などに苦しんだ下山定則総裁の自殺(他殺説もあり)があった。昭和24年である。戦後の出発時から国鉄は日本社会の縮図ともいえたのだ。
 さらに、収益性を無視して政治家の都合により路線をふやし、一方で「親方日の丸」意識での慢性赤字の事業体と化していった。その国鉄をどうするか、労働現場での組合管理に近い状態、それに抗する当局側との対立の中で、その方向性が次第に問われていく。とくに最盛期には50万人の組合員を擁した国労が中心になって現場協議制度が実施され、職場長の権限と権威は失われる。当局はこれに対して生産性向上運動との名目によるマル生運動で応じるのだが、メディアもこのマル生運動には批判的だったために組合寄りの報道が行われる。
 赤字や職場規律の乱れがやがて行財政改革の対象となり、分割・民営化へと進んでいく。
 著者は長年、国鉄の推移を見つめてきた元新聞記者だが、こうした国鉄当局と組合(国労のほかに動労、鉄労、全施労など)の対立やその裏側の労使なれあいの実態をえぐっていく。著者の筆は容赦ない。関係者の証言や史料をもとに、より具体的にそれぞれの場を語っていくのだが、つまりは莫大(ばくだい)な赤字を生む体質そのものに問題があると浮きぼりにする。国鉄当局の松田昌士、井手正敬、葛西敬之の三人組の改革派がいかに分割・民営化を目ざしたか、仁杉巌、杉浦喬也ら歴代総裁の心情、国労書記長の富塚三夫など組合幹部の思惑を洗いだし、分割・民営化が主な潮流となっていく状況が説かれている。鈴木善幸内閣の行管庁長官・中曽根康弘が、その後、首相となって第二臨調のもとに民営と合理化路線を軌道にのせるプロセスも詳しく書かれている。
 「昭和」の暗部を再びよみがえらせないための、この書の教訓、それは著者が本文中でなんどかにおわす〈権力の横暴と権力への媚(こ)び〉に対する怒りにあるのではないか。
    ◇
 まき・ひさし 41年生まれ。ジャーナリスト。日本経済新聞社に入社後、東京本社社会部長、代表取締役副社長などを経て、テレビ大阪会長。著書に『サイゴンの火焔樹』『不屈の春雷』など。

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