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成功者K [著]羽田圭介

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2017年05月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■私小説の伝統に逆らう“増長”芸

 17歳でデビューした羽田圭介が13年目にして芥川賞を受賞し、名前を売って『成功者K』なんて本まで書く。めざましい成長と活躍? いやいや、ここは「調子こいてんじゃないわよ」と一喝してやるべきだろう。だってそういう小説なんだから、これは。
 主人公のKは芥川賞をとって「多大なる成功」を手にした(と思い込んでる)30歳の小説家。本とは無関係な地上波のバラエティー番組に出演したのを機に一躍有名になってしまった。以来、町を歩けば「芥川賞とった人ですよね」と声をかけられ、テレビ局からはオファーの山。地方都市のサイン会に赴けばプレゼント攻勢。成功者である以上むろん外出時には帽子とマスクが欠かせない。
 「すごく、女性からモテるんじゃないんですか」という質問には「そんなことないですよ」と答え、「どういった目的でこんなにもテレビに出ていらっしゃるんですか?」と聞かれれば「本の宣伝です」とかわしてはいたものの、自らギャラはつり上げる、あっちから女の子は寄ってくる。気がつけば、成功者Kは狙った美女は逃さない性交者Kになっていた……。
 そんなバカな、と思いながらも、ついついノセられる展開。私小説の定石は自虐芸、という伝統に逆らって、この小説はどこまでも図に乗って増長していく作家の姿を露悪的、偽悪的に描いてみせるのだ。
 〈昔は臆病で女とつきあうときも自分から告白などしてこなかったのに、どうしてこんなにも強気で自信のある人間になったのか、わからなかった〉とうそぶくK。〈芥川賞は、そんなにすごいのだろうか〉
 んなわけないじゃん。という現実にはたしてKは気づくのか。それとも!?
 もともと羽田圭介は特異な状況に放り込まれた人物の極端な行動を描くのが得意な作家だ。芥川賞受賞作は介護、前作はゾンビ、今度はテレビ。くれぐれも眉に唾(つば)して読まれたし。
    ◇
 はだ・けいすけ 85年生まれ。「黒冷水」で文芸賞を受けデビュー。「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞。

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