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なぜ日本企業は勝てなくなったのか―個を活かす「分化」の組織論 [著]太田肇

[評者]加藤出 (東短リサーチチーフエコノミスト)

[掲載]2017年05月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■長時間働くが「熱意」に欠ける

 日本企業の社員はこれまで長時間働いてきた。しかし、近年はそれが経済成長にあまりつながっていない。例えば、2015年のドイツの年間労働時間(OECD調べ)は日本より25%も短いが、1人あたりGDP(購買力平価、IMF調べ)は、日本より17%大きい。
 他方で東芝、電通、三菱自動車など日本を代表する大企業で組織ぐるみの不祥事が相次いでいる。自浄作用が働かなくなってしまった。日本企業は構造的な大きな問題を抱えているのではないか?と心配になる。
 本書は日本企業が抱える諸問題に共通する「病根」があると主張する。個人が組織や集団から「分化」されておらず、共同体型組織に埋没してしまっている点に問題があるという。
 個人の職務と権限が明確に決まっておらず、人事評価には上司の主観や裁量が入りやすい。このため、出世競争を勝ち抜くには「無際限・無定量」の忠誠と貢献が必要となる。人間関係が濃密だと、不正が見逃され、意思決定が「空気」でなされる「集団無責任体制」にもなりやすい。
 大量生産が重視された工業社会の時代には、日本の共同体組織はうまく機能した。しかし、IT化が進むポスト工業化社会では、「規格外」で「天井」を突き抜ける意欲・能力を持った人材が必要である。だが、同調圧力が強いと「出る杭」は打たれやすい。
 一方、28カ国で実施された仕事に対する正社員の「熱意」を尋ねた調査では、日本人は極端に低く最下位だったという。長く働くが、熱意に欠けるという状態に陥っている。
 企業の生産性を高めるには、社員の「内発的モチベーション」を高め、生き生きと働いてもらう必要があるだろう。そのために本書が推奨する「分化」の処方箋(しょほうせん)(職務・権限の明確化、雇用から独立自営に切り替える「社内独立制度」、副業の推奨など)は傾聴に値すると思われる。
    ◇
 おおた・はじめ 54年生まれ。同志社大学教授(経済学)。著書に『個人尊重の組織論』『公務員革命』など。

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