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原点 THE ORIGIN―戦争を描く、人間を描く [著]安彦良和、斉藤光政

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2017年06月04日

[ジャンル]人文

表紙画像

■歴史と向き合う団塊世代の人生

 安彦良和がメインスタッフを務めた「機動戦士ガンダム」の直撃を受けた世代だ。『クルドの星』でクルド人問題を知るなど、安彦のマンガも愛読している。
 そんな自分にとって、丹念な取材のノンフィクションと、本人のエッセイからなる安彦の評伝兼自伝の本書は、驚きの連続だった。
 安彦が関わったアニメやマンガの裏話は決して多くない。ただ団塊の世代で、政治の季節に青春時代を送るなど、常に歴史と戦争を考えてきた安彦の人生に触れたことで、物語のテーマがより深く理解できた。
 最も興味深かったのは、全共闘時代のエピソード。母校の弘前大学の活動家は約50人。大都市では内ゲバを繰り広げていた対立セクトも、弘前では各派数人なので、仲良く活動を行っていたというのが面白い。
 それでも東大安田講堂に籠城(ろうじょう)したり、リンチ殺人を起こす連合赤軍に加わったりした仲間もいた。そして安彦も大学を封鎖したことで除籍となり、上京してアニメの世界に飛び込む。
 安彦は、冷戦を背景にしたベトナム戦争に反対するが、それは日本がアメリカの戦争に関与したからだという。この認識は冷戦がモデルの「ガンダム」に受け継がれ、集団的自衛権を持ちアメリカとの連携を深める現代の日本が、いかに危ういかとの指摘に繋(つな)がる。
 また親の世代が戦争を経験した安彦は、戦前を悪とする図式に疑義を唱えつつも、近代の日本がどこで間違ったかを問うマンガ『王道の狗(いぬ)』『虹色のトロツキー』などを書く。そのため現在の日中関係が複雑なのは、古代にまで遡(さかのぼ)る互いの近親憎悪の歴史があるからとの解釈も示唆に富む。
 大学時代の運動を検証するため、仲間を訪ね歩くほど歴史と真摯(しんし)に向き合っている安彦は、歴史の真実を学び、自分で考えて行動する必要があるとする。保守もリベラルも都合よく歴史を読み替えている今、日本のこれからを考える意味でも、安彦の言葉は重い。
    ◇
 やすひこ・よしかず 47年生まれ。アニメーター▽さいとう・みつまさ 59年生まれ。東奥日報編集局次長。

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