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子どもたちの階級闘争-ブロークン・ブリテンの無料託児所から [著]ブレイディみかこ

[評者]齋藤純一(早大教授)

[掲載]2017年06月11日

[ジャンル]教育 社会

表紙画像

■「一番低い場所」から社会問う

 本書が描くイギリスの底辺社会の実相は、この春に日本でも上映された、ケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』のいくつかのシーンと重なった。そのひとつは、ロンドンから北部の安い住宅に追い立てられたシングルマザーが、空腹に耐えかねてフードバンクの食料をその場で口に詰め込む姿である。
 ブライトンで保育士として働く著者によれば、かつての勤め先だった託児所も、2010年以降、保守党政権が推進した新自由主義政策のもとでフードバンクに変わった。「最下層の子どもたちに未来を与える」ための託児所は、「かれらをいま生きさせるための食料庫」となった。
 大幅に削減されたのは、「下層の人々を引き上げるための制度や施設への投資」であり、その結果、社会の底辺には「閉塞(へいそく)や孤独やノー・フューチャーな感じ」が充満するようになる。財政が縮むと人の心も縮み、水平的な差別や憎悪も現れるようになる。子どもたちは親たちの荒廃をなぞるようになる。
 著者は、イギリスの社会がいかに底辺層を見捨て、しかもそれを許容するようになったかをリアルに告発する一方で、その同じ社会に、「底辺を底辺として放置させてはいけない」と立ち上がる人たちがいることを伝える。その底力への共感と期待がこの本のもうひとつの魅力である。
 日本の子どもたちも貧困とは無縁ではない。一人親世帯の子どもの貧困率は54・6%(12年)に達している。著者のいう「ノー・フューチャーな感じ」、いかに努力しようと将来の見込みはないという希望の喪失こそ、貧困が引き起こす最大の問題である。社会による放置は絶望として内面化されていく。
 政治が変わると社会はどう変わるか。本書は、「一番低い場所」の視線から、その変化をありありと描き、それは何のための代償だったのかという問いへと読者を導く。
    ◇
 65年生まれ。英国在住の保育士・ライター。著書に『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』など。


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