書評・最新書評

衛生と近代-ペスト流行にみる東アジアの統治・医療・社会 [編]永島剛、市川智生、飯島渉

[評者]椹木野衣 (美術評論家)

[掲載]2017年06月11日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

 ペストの史上3度目のパンデミックは近代アジアで起きた。本書では英国統治下の香港、共同租界ひしめく上海、オランダ領東インドなどでの事例を見るが、日清戦争以降、台湾や朝鮮の植民地政策に乗り出した日本も同じ問題を抱え、神戸では患者を出した。
 帝国主義は領土を媒介にヒト、モノ、カネの出入りを制御し、富を蓄積する。ところが菌は国境など頓着せず、交易が進むほど蔓延(まんえん)する。植民地支配の鍵は「衛生」化にかかっていた。その全体像をかえりみれば、旧来の日本史、東洋史、西洋史の枠はおのずと取り払われる。
 執筆者たちが本書の基礎となった研究報告会を行ってから10年近く経つ。その間、不可視のサイバー攻撃、新型インフルエンザの発生、神出鬼没のテロリズム、原発事故による放射能の拡散が起きた。軌を一に新たな帝国主義化が進み、東京五輪を控えて、新たな衛生観念が唱えられる。本書の迫真性は高い。


関連記事

ページトップへ戻る