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世界の田園回帰-11カ国の動向と日本の展望 [編著]大森彌、小田切徳美、藤山浩

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年06月11日

[ジャンル]社会

表紙画像

■「過疎→消滅」にしない取り組み

 近年、「限界集落」や「消滅都市」といった言葉が一世を風靡(ふうび)した。だが、事態は本当に「消滅」へと突き進んでいるのか。本書は真っ向からこれに反証を突きつける。むしろ、起きているのは人口の田園回帰であり、事態を反転させることは可能だと訴える。
 実際、島根県の中山間地域では、2011〜16年に3割を超える地区で4歳以下の子供や30代の男女が増えたという。特に30代女性は、過半の地区で維持・増加し、定住人口の増加で人口1%の取り戻しが実現、人口安定化の展望すら生まれているという。
 もちろん今後も、大都市圏への人口集中は継続するとみられるが、過疎地域が軒並み「消滅」する極端な事態は避けられそうだ。ただ、放っておいて大丈夫ではない。過疎地域の再生に向けた、継続的な取り組みが必要だ。本書は、諸外国の魅力的な取り組みに、その範をとっている。
 例えば、山岳国オーストリアでは、さまざまな地域が豊富な森林資源を活用して電力/熱供給事業に取り組んでいる。人口6600人の町をモデルとした試算によれば、化石燃料から地元の森林エネルギーに完全に切り替えれば、雇用は8・5人/年からなんと61人/年に増加、域外に流出する所得(燃料費)は、1510万ユーロから160万ユーロへと激減し、実質的に地域の所得を高めてくれる。
 諸外国の事例に共通するのは、「お上」に依存せず、人々が企業家的な精神で自ら事業を起こし、所得と雇用を創出しようと試みている点だ。他方で彼らは、田園生活の豊かさを着実に引き上げ、都会とはまったく異なる魅力の創出に成功している。つねに「なにか面白いことが起きている」地域にこそ、人々は魅(ひ)かれ、人口が戻るのだろう。
 「人口減少=地域消滅」では決してない。本書は地域の運命が、我々自身の手に握られていることを改めて再認識させてくれる点で、まさに希望の書である。
    ◇
 おおもり・わたる 東京大名誉教授▽おだぎり・とくみ 明治大教授▽ふじやま・こう 島根県立大連携大学院教授。



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