書評・最新書評

物語論 基礎と応用 [著]橋本陽介

[評者]円城塔  (作家)

[掲載]2017年06月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■面白さを技術として解き明かす

 好きな小説を一冊、手元に用意して欲しい。
 登場人物の名前や、あらすじを言える人は多いだろう。ではそのお話は、三人称で書かれていただろうか、一人称で書かれていただろうか。文章は、過去形だったか、現在形だったか。そうして誰の視点から書かれていたか。
 目の前の本を開いて確認してみてもらいたい。
 多くの人は、小説を読んでいる間、そうした文章の細部には気がつかないし、小説はいちいちそんなことを気にしなくてよいようにつくられている。
 ただし、書く場合はまた別である。
 情報技術の発達により、文章を書く人の数も、そこで書かれる文章の量も増大したが、書き方については言われることが少ない。
 書き手の内面を素直にあらわす文章がよいものであるとされたり、気合が重視されたりする。無心になれば素晴らしい文章が湧いて出てくる、といったところだろうか。
 そうした要因も否定しないが、なにごとにも技術として捉えることのできる側面があり、定型的な部分がある。新しいことをしようとするにも、既存のものの特徴を把握することがまず早道だ。
 日本語で作品をつくると決めればたちまち、日本語の特性にからめとられることになり、そうそう無心になってもいられない。
 本書の前半では、物語に関する理論がまとめられ、後半では実際の作品が検討される。
 誰でも物語をつくることができるようになる方法を指南する本ではなく、物語の仕組みを取り出していこうとする本である。小説や映像作品の特徴を様々見つけ出していくことは、作品の新しい楽しみ方をみつけていく行為に等しい。
 作品を鑑賞するにもつくるにも、型にはまってしまっては面白くない。
 物語というものが、どうしてそうなっているのかを考えさせてくれる本。
    ◇
 はしもと・ようすけ 82年生まれ。慶応大学非常勤講師。専門は中国語を中心とした文体論、テクスト言語論。

関連記事

ページトップへ戻る