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鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。 [著]川上和人

[評者]山室恭子(東工大教授)

[掲載]2017年06月18日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■わくわくワールドを観察すれば

 ◇進路相談室だより◇
 鳥類学者になりたいです。胸がドキドキする本に出合いました。噴火で出現したばかりの絶海の孤島で、生物相が誕生するところから観察できるなんて、この世界の未来はどうなってしまうのかと日々憂えている私にピッタリの職業だと思います。
 私はどちらかというと鳥より虫のほうが好きですが、空を飛ぶことは大好きです。こんな私でも鳥類学者になれるでしょうか。
 (悩める森ガール)
 ◆回答◆
 よい本に出合いましたね。先生も読んでみました。かろやかな語り口で野外調査の修羅場を歩きつつ、「研究に努力賞はない」「結果を伴わなければ意味をなさない」、びしっと決める。アカポッポはなぜ頭が赤いのか、ミクロな事象の意味をとことん突きつめる思考法も新鮮です。メジロに丸飲みにされても1時間後に15%が生きたまま排出されるカタツムリ決死隊の快挙には思わず拍手。命がけの飛行で大移動を成し遂げるなんて、すごい。
 たしかにわくわくワールドです。でも、ちょっと考えてみましょう。息を吸うたびに鼻と口から小バエの集団がわらわら侵入してくる孤島に2週間ですよ。乙女の身で耐えられますか。
 そもそも、この本の著者は何を意図しているのでしょう。「鳥類学者」という希少種を絶滅させないために、地道な日常を派手めに脚色してアピールし、仲間を増やそうとたくらんでいるのです。そう、あたかも鳥のオスが、あでやかな彩色をほどこしてメスの気を引くように。
 相談者さんは生き物好きで、まっすぐなご気性のようですが、すなおすぎるのが、やや心配です。この世界には他にも魅力的な職業がたくさんあります。今すぐ決めずに、いろいろな扉を開いてみましょう。
 「青き衣をまといて金色の野に降り立つ」ような、すてきな未来が待っているかもしれませんよ。
    ◇
 かわかみ・かずと 73年生まれ。森林総合研究所主任研究員。著書に『そもそも島に進化あり』など。

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