書評・最新書評

未来の学校―テスト教育は限界か [著]トニー・ワグナー

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年06月25日

[ジャンル]人文

表紙画像

■21世紀の優れた授業・評価は

 21世紀の世界に巣立っていく子供たちに求められる能力とは何だろうか。そのために学校教育は何を提供すべきか。これらの問いに、正面から回答を試みたのが本書である。
 優れた業績を収める著名企業の経営者たちへのインタビューで、著者はまず、21世紀の「知識経済」に求められる働き手の資質として、「専門的知識の有無」がまったく挙がらないことに驚く。共通して重要とされたのは、「的を射た質問をする能力」「相手の目を見て対等に議論できること」、そして「他人と協調しながら仕事を成し遂げる能力」であった。
 その背景には、企業の組織構造や仕事の仕方の変化がある。かつて大企業の組織は階層構造をなし、経営スタイルはトップダウンだった。現在、組織はフラット化し、仕事はプロジェクトごとに部門の枠を超えたチーム編成で進められる。彼らは課題を与えられるものの、解決法は示されない。中間管理的な仕事は減少する一方、製品・サービスの生産や顧客対応の最前線に立つ労働者は、現場で直接、思考力を働かせて課題を解決する能力が求められるようになっている。
 翻ってアメリカの学校教育をみると、現在学校で教えられている内容と、グローバルな知識経済で生きるのに必要な能力との間に、大きなギャップがあると著者は指摘する。とくに公立学校は、知識の獲得を依然として主目的とし、その達成度を筆記試験でチェックする従来型から脱却できていない。
 21世紀型の優れた授業は、次の要素を含んでいるという。第一は、つねに学び続ける能力の養成だ。暗記よりも、論理的に考え分析する能力と、その結果を的確かつ巧みに文章、あるいは口頭で表現する力が重要だ。第二は、学習の動機づけの養成だ。議論、プロジェクト、実習、論文執筆などへの参加を通じ、疑問や興味を掘り下げる機会をもつことが、学習への動機づけとなる。第三に、達成度は筆記試験ではなく、生徒の(口頭発表やエッセーなどの)パフォーマンスで評価すること。これはしかし、「言うは易(やす)し、行うは難し」の典型だ。筆記試験と異なって、パフォーマンス評価は難しい。著者はしたがって評価基準(「パフォーマンス基準」)の研究開発に力を注がねばならないと強調する。
 本書は、21世紀社会の特質を的確にとらえ、学校教育に必要な変革を見事に描き出した好著といえよう。日本の新しい学習指導要領も、実は本書と同じ問題意識を共有している。学校現場での実践や評価方法に課題を残すものの、方向性は間違っていないのではないだろうか。
    ◇
 Tony Wagner 米ハーバード大イノベーション研究所研究員。同大学変革リーダーシップ・グループ研究所の創設者・共同ディレクターを歴任。著書に『未来のイノベーターはどう育つのか』。

関連記事

ページトップへ戻る