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情報と秩序―原子から経済までを動かす根本原理を求めて [著]セザー・ヒダルゴ

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2017年06月25日

[ジャンル]経済 科学・生物

表紙画像

■話題各種が七変化する複雑系

 とっちらかった本である。でもそこが、他書にない強烈な魅力を放っている。テーマはざっくり二つ。経済を情報の自己再生産過程とみなすと何がわかるか。そして、そもそも情報って何なのか。
 著者は、経済成長を新たな視点から分析した前者に重点を置いているようだが、後者も十分面白い。「情報はどこからやってくるのか? なぜ情報は地球に集中しているのか?」なんて真っ正面から大上段に問いかけた本も、珍しかろう。
 ここでヒダルゴが依拠するのはイリヤ・プリゴジンの理論。情報は非平衡系から発生し、固体に蓄積され、物質そのものの計算能力によって増殖していく。地球にはこれらの条件が揃(そろ)っていたし、人類が登場して情報の成長はさらに速度を増してきた。
 製品とは、人びとがその頭の中にあるイメージを外化して結晶化したものである。したがって、製品をやりとりする経済活動とは、情報の交換に他ならない。
 これらの情報は均一に分布しているわけではない。個人、企業、国家、いずれも、知識やノウハウの集積の「単位」である。それらが相互にどのようなネットワークを形成し、その中でどのような位置にあるのかを分析すれば、それぞれのレベルで経済の動態を記述できるはずだ。たとえば国家については、著者は輸出入の相互連関のパターンから「経済複雑性」という指標を考案し、これがその国の経済動向を予測していることを示している。ちなみに、この指標がいちばん高い国は日本だそうだ。ホントかな。
 複雑系の物理学から生命科学、経済学の各種理論と、さまざまな話題が次から次へと飛び出してきて、あっちこっちへと移りながら、小気味よいテンポで先に進んでいく。真面目についていこうとしても振り落とされないようにしがみつくのが精一杯(せいいっぱい)だ。あまり深く考えず、著者の七変化を気楽に楽しむ読み方が吉だろう。
    ◇
 Cesar Hidalgo 79年チリ生まれ。米マサチューセッツ工科大准教授。専門は複雑系経済学など。

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