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なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか?―“カワイイ”を世界共通語にしたキャラクター [著]クリスティン・ヤノ

[評者]円城塔  (作家)

[掲載]2017年07月02日

[ジャンル]社会

表紙画像

■謎多いクールジャパンの象徴

 百年後にも残っている日本文化はなにかという話をすると、ハローキティかマリオブラザーズではないかとなることが多い。いや日本にはまだまだ素晴らしい文化があると言ってみても、実際に海外の街中で姿を見かける機会が多いのはこの二つである。あとは忍者か。
 そのキティだが、意外に謎が多いのである。まず猫なのか。猫ではどうもないらしい。「小さな人間の女の子」であるとロサンゼルス・タイムズ紙に語り、衝撃を引き起こしたのが、本書の著者、クリスティン・ヤノ。十二年にわたり、北米におけるキティを研究してきた。
 どこかで姿を見かけない日のないキティに謎が多いのは、キティには口がないからである。ついては他の人間が代弁するということになる。
 国内外を問わず、熱心なファンも数多い。あらゆるグッズを収集しなければという気持ちを抱き、極端な消費行動に走る者が現れる。
 世界的に広がりつつあるというカワイイの象徴ともみなされる。このカワイイは、キュートとは、ややずれており、その証拠には、キュートとクールは結びつきにくいが、カワイイとクールは両立しうる。
 有名人である以上、反感もまたさけられない。ネットで叩(たた)かれたりもして、反キティが宣言されたりする。芸術作品の中で、肯定的にも否定的にも取り扱われる。
 口ごたえせず従順なアジア女性というイメージを強化するものだと非難されたりすることも起こる。それと同時に、ゲイパレードでの人気者になっていたりもする。
 間違いなく、社会学的に興味深い対象である。
 本書はインタビューと考察から構成される。後者には日本からの視点が欠け気味に見えるが、これはもう、一人の人間が持ちうる調査能力の限界といってよいのではないか。
 有名であるがゆえに世界中で知られるようになりつつあるキティが、有名でありすぎるがゆえに、とらえようのないもの、どのようにもでもとらえられうるものに成長していく様子は、他人事(ひとごと)ではない。
 なんといっても、キティはもはや、クールジャパンを代表するキャラクターの一つなのだ。
 経済的な成功者像を重ねる者もあれば、幼児や女性に対する視線をみいだす者もいる。
 クールな日本というメッセージでも、うけとり手によって意味は様々異なりうる。
 キティはクールジャパンに先行すること何十年、体を張って世界を巡り、そこで何が起こりうるかの貴重なサンプルを与えてくれている。
    ◇
 Christine Yano ハワイ大人類学部教授。日系人。ハワイの日系人文化や、日本の戦後の演歌などについての論文もある。著書に『パン・アメリカン航空と日系二世スチュワーデス』。

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