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永遠の道は曲りくねる [著]宮内勝典

[評者]佐伯一麦 (作家)

[掲載]2017年07月02日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■生命の連続、宇宙的スケールで

 3・11以降のいまを、地球的、いや宇宙的なスケールで描き切った長編小説である。戦争で約20万人の死者があった沖縄の海で始まり、23回の核実験が行われたビキニ環礁の海で終わる物語の主人公は、世界放浪の後、沖縄の精神科病院で働き始めた32歳の男。
 もう若くないことを自覚して、「これまで『ジロー』と呼ばれてきたが、今日から『有馬』として生きることにしよう」と決めた、その有馬の視点が効果的だ。無人称というわけではないが、人称を表す主語は最小限に抑えられ、視点はシームレスに登場人物たちの語りと往還する。有馬のニュートラルな瞳に映った世界は、草の葉に宿った一粒の露が全宇宙を映し出している、としたインドの詩人タゴールの詩を想(おも)わせる。そこに、宇宙ステーションに滞在中の黒人宇宙飛行士ジムとのメールでのやりとりが挟まる。
 病院の院長霧山は元全学連指導者で、安保闘争で敗れた贖罪(しょくざい)から沖縄へ渡り、戦争のため心を病み、放置された島の人々の治療を、乙姫さまと呼ばれているユタ(霊能者)の女性とともに長年続けてきた。米軍基地の真下に通じる洞窟(ガマ)で開かれる、戦争や紛争で傷ついた母なる星に平和をもたらす祈りの祭典で、先住民の13人のグランマザーたちが、難民や女性虐待など世界の悲劇の連鎖を語り、沖縄在住のアメラジアンと呼ばれるアメリカ人とアジア人の血が流れるナナミとアタル、戦争PTSDを抱える米軍基地の患者ジェーンたちの境遇とが交錯する。
 ビキニの爆心地に潜水した有馬が目にし、生命の連続性としての神を見たと思う海亀は、「知性というやつは、むやみに上昇して抽象へ向かう。一神教へ向かっていく。だが地中深く根を張っているのは、やはりアニミズムだ。だからわたしは知性を逆に使って、あえてアニミズムに踏みとどまるつもりだ」と、余命わずかな霧山が次世代に託した叡智(えいち)の具現だろう。
    ◇
 みやうち・かつすけ 44年生まれ。『焼身』で読売文学賞。『ぼくは始祖鳥になりたい』『金色の虎』など。

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