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大不平等―エレファントカーブが予測する未来 [著]ブランコ・ミラノヴィッチ

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年07月16日

[ジャンル]経済

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■グローバル格差は縮小へ

 ピケティ『21世紀の資本』以来、久々に格差に関する問題作が現れた。本書は、グローバル化が格差拡大/縮小に与えた影響を、実証的に分析した好著。
 著者はまず、グローバル化が加速した年代(1988〜2008年)の所得分配を検証する。縦軸に所得増加率、横軸にグローバルな所得分布をとると、所得増加率の高い「世界最上位1%階層」と「グローバル中間層」(中国、インド、東南アジア諸国の中間層)の高い山に挟まれて、先進国中間層がその谷間に位置する、象の鼻に似た形状の曲線(「エレファントカーブ」)が描ける。これは、所得増加率がほぼゼロの先進国中間層の没落、アジア諸国の著しい台頭を裏づける。
 次に著者は、ノーベル経済学者クズネッツの提唱した「クズネッツ曲線」の妥当性に異を唱える。縦軸に格差をとり、横軸に時間をとると、曲線は経済発展とともに右肩上がり(格差の拡大)となり、やがて頂点に達して、今度はさらなる経済発展とともに右肩下がり(格差の縮小)の「逆U字型曲線」を描く。実際、多くの国々が近代化/工業化でこの経路をたどり、曲線の妥当性が立証されてきた。
 しかしさらに時間が進むと、我々が今まさに目撃しているように、格差は再び拡大する。また、中世から現代まで長期の時間軸をとると、格差は拡大・縮小過程を循環してきたことが分かる。著者はこれらから、「クズネッツ曲線」に代えて「クズネッツ波形」を提唱する。この波形は、不平等が無限に拡大しないことを物語る。極端な不平等は人口減少と国力低下を引き起こし、支配層にとっても許容可能でなくなるからだ。
 著者は、これらの知見に基づいて将来、グローバル格差は縮小すると、大胆にも予測する。現に、人口加重した各国間の所得不平等度は1980年代以降、着実に縮小の一途をたどっている。さらにデータから、中国国内の格差の拡大傾向も天井を打ったとみる。問題はアメリカで、あらゆる状況証拠からみて格差拡大傾向が収まる兆候はみられず、中間層のさらなる没落と富裕層支配強化(「金権政治化」)の恐れがあるという。格差への処方箋(せん)として本書は、事後的な所得再分配ではなく、教育への公的投資や資産保有の平等化など、事前的な是正アプローチの有効性を強調する。
 先進国/20世紀以降だけで格差を語る場合と、グローバルな視野/中世以降の長期的視点で格差を語る場合とで、こうも風景が異なって見えるのだろうか。グローバル格差の分析を通じて、アジア資本主義の歴史的台頭を裏づけた点に、本書の大きな功績があるといえよう。
    ◇
 Branko Milanovic ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、ニューヨーク市立大大学院センター客員大学院教授。世界銀行調査部の主任エコノミストを20年務める。『不平等について』。

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