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劇場 [著]又吉直樹

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2017年07月16日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■開き直れない“無頼派”の苦闘

 芥川賞を受賞した又吉直樹のデビュー作『火花』は売れない漫才コンビの片割れを語り手に「表現者の苦悩」を描いた小説だった。話題だけ先行し、作品の感想があまり聞こえてこなかったのは、主人公が師と仰ぐ先輩芸人の芸風が少々難解だったせいかしら。
 『劇場』の語り手は演劇青年である。高校卒業後、友人と二人、大阪から上京し、小さな劇団を立ち上げて3年。が、公演はいつも不入りで、劇団員は去っていく。そんな「僕」を救ったのは服飾系の大学に通う沙希だった。「僕」は彼女のアパートに転がり込み、脚本を書くという大義名分の下で、ゲームに逃避する生活を続けるが……。
 売れない作品。貧乏。女に寄生する芸術家と、献身的な恋人。ひと昔前の言葉でいう「無頼派」である。主人公のクズ度は前作より上。むろん作者はそこを狙って書いているのだ。
 〈たとえば、ヒモなどという言葉に身をゆだね、他人から蔑(さげす)まれる存在になっても恥と思わない男を、一旦(いったん)は馬鹿にしたうえで羨(うらや)ましく思う〉。自分は違う。〈僕には完全に負け切れない醜さがある〉
 開き直れない無頼派は、周囲が社会的に自立していく姿にも耐えられない。
 大学を卒業し、昼間は服飾店で夜は居酒屋で働く沙希。豊かな才能で「僕」を打ちのめす同世代の劇作家。ライターに転進し、小説を書きはじめた元劇団員の女性に、彼は呪詛(じゅそ)みたいなメールを連打する。
 〈お前の小説の佇(たたず)まいは残念ながらハーブティーの美味(おい)しいカフェの安っぽい壁紙と同じような感じやったぞ。オシャレな壁紙読んでる感覚。それ剥がして中身見せてくれや〉
 これすなわち嫉妬。
 二作に共通するのは、近代文学へのリスペクトと、それをリノベーションする意志である。恋愛小説と思って読むと白けるが、ダメ男の生態に密着した自虐小説としておもしろかった。
    ◇
 またよし・なおき 80年生まれ。お笑いコンビ「ピース」のボケ担当。15年、「火花」で芥川賞受賞。

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