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星の子 [著]今村夏子

[評者]斎藤美奈子 (文芸評論家)

[掲載]2017年07月23日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■「あやしい」と「まとも」の間で

 こないだの芥川賞には、はい、落ちました。落ちたけど、今村夏子が現在もっとも有望な作家のひとりであることに変わりはない。
 デビュー作『こちらあみ子』も2作目の『あひる』も、子どもの視点から(少し歪〈ゆが〉んだ)家族の風景を切り取った作品だった。
 『星の子』が問いかけるのは、ざっくりいえば家族と宗教の問題である。
 語り手は中学3年の「わたし」こと林ちひろ。
 両親はあやしげな新宗教に入会し、家族は「金星のめぐみ」と称する特別な水を愛飲し、教会が主催する集会や合宿に積極的に参加し、彼らを勧誘した人物を無条件に崇拝している。ちひろの身体が弱く、くだんの水に頼ったら快癒したのがはじまりだった。
 中学生になったちひろはしかし、まともな社会にも属している。高校生の姉は両親の目を覚まさせるべく一計を案じた末に家出し、親戚は心配してちひろを両親から引き離そうとする。学校での彼女の立場は微妙だが、友達もできた。
 「あやしげ」な宗教集団と「まとも」な親戚集団や学校社会。二つのコミュニティーのどちらも、ちひろは否定できない。
 〈「あんたも?」となべちゃんにきかれた。「信じてるの?」/「わからない」/とわたしはこたえた。/「わからないけど、お父さんもお母さんも全然風邪ひかないの。わたしもたまにやってみるんだけど、まだわからないんだ」〉
 あやしい新宗教にこの子は洗脳されている、とまともな社会の住人は思うだろう。だけど、それをジャッジするのは誰なのか。「あやしい」と「まとも」は視点や立場が違えば簡単に逆転するのである。だからここでは二つの社会が、どちらにも肩入れすることなく均等に描かれる。
 排除する側の論理とされる側の感情。そんな面倒な課題を中学生の(しかもちょっとぼんやりした子の)言葉と感覚だけで書いちゃうって、すごくない?
    ◇
 いまむら・なつこ 80年生まれ。太宰治賞作収録の『こちらあみ子』で三島由紀夫賞。『あひる』で河合隼雄物語賞。

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