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かがみの孤城 [著]辻村深月

[評者]末國善己 (文芸評論家)

[掲載]2017年07月23日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■生きづらさ感じている君たちへ

 10代のリアルをとらえた青春ミステリーを発表していた辻村深月だが、近年は大人の鬱屈(うっくつ)を描く作品も増えている。心に傷を負った7人の中学生に焦点を当てた本書は、初期作品を思わせるテイストがある。
 中学1年のこころは、入学早々いじめられ不登校になる。ある日、こころの部屋の鏡が光り、手を触れると異世界に立つ城へと導かれる。そこには、こころと似た境遇の中学生の少年少女6人が集められていた。
 城には狼(おおかみ)の仮面をかぶった少女がいて、来年3月までに、城の中に隠されたどんな願いも叶(かな)う鍵を探し出せという。ただし城に滞在できるのは毎日9時から17時まで、鍵が見つかっても願いが叶うのは1人だけとの条件が付けられていた。
 城を一種の避難所と見なして通うようになった7人が、すれ違ったり対立したりしながらも次第に心を通わせ、自分の秘密を話すようになる前半は、せつない青春小説となっている。
 大人と子供ではいじめの認識が異なることや、なぜ学校でのトラブルを親に相談できないのかなど、誰もが覚えのある思春期の生々しい心情に迫った著者の手腕にも驚かされるはずだ。
 終盤には、ファンタジー的なスペクタクルも満載。わずかな手掛かりから鍵を探したり、周到な伏線がどんでん返しを連続させたりするミステリーの仕掛けもプラスされ、加速する展開に圧倒されるだろう。
 そして、すべての謎が解かれると、生きづらさを感じている人へのエールが浮かび上がってくる。意外な真相が読者の心を揺さぶるだけに、より大きな感動が味わえるのではないか。
 本書は著者の原点回帰といえるが、それだけではない。こころを守る母親、子供の話を真剣に聞くフリースクールの喜多嶋を登場させ、子供を救うために大人は何をすべきかを問う新たな視点もあるのだ。その意味で本書は、主人公の同世代も、その親の世代も共感できる物語なのである。
    ◇
 つじむら・みづき 80年生まれ。作家。『ツナグ』で吉川英治文学新人賞。『鍵のない夢を見る』で直木賞。

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