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人民元の興亡―毛沢東・トウ小平・習近平が見た夢 [著]吉岡桂子

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年07月23日

[ジャンル]経済 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■日・中・米、国際通貨の攻防戦

 本書は、人民元に加え、東アジア国際通貨システムをめぐる日・中・米3カ国間の熾烈(しれつ)な攻防戦を、ダイナミックに描いた好著だ。
 遠い過去のようだが実は最近まで、日中の中央銀行のトップ同士は、ほほえましい交流を通じて信頼関係を構築していた。尖閣諸島領有権をめぐって両国が衝突する2012年まで、日本は愛着をもって中国に接し、中国は日本から真剣に学ぼうとしてきた。日銀と中国人民銀行は02年、自国通貨建てスワップ協定を締結するが、両国ともアジアで初めてだったという。
 97年に東アジア通貨危機が起きると、日本は地域の通貨協力体制の構築に動く。アジア通貨基金(AMF)の創設に向け、アジア諸国の支持獲得に成功。高揚感が漂う中、いよいよ日本主導の国際会議で合意形成をという段になって、米国が猛烈に反対、中国は無言を貫き、あえなく構想はついえてしまう。
 日本はしかし、当時の蔵相の名を冠した「新宮沢構想」を提案、地域間通貨協力の芽を残す。さらに、中国も協力へと転じたことで、00年に日中韓とASEANが通貨危機の際に相互協力する「チェンマイ・イニシアチブ」の創設につながった。日本がアジアでの圧倒的な経済大国として構想を描き、資金も拠出し、制度構築を仕切れた最後の機会だったといえようか。
 だが時代は変転し、中国は成長して急速に自信を深めていく。尖閣問題もあって、中国は日本に配慮する必要を感じなくなり、両国の牧歌的な関係は終わりを告げる。立場は入れ替わっていまや中国が「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を創設、日本は参加を迫られる立場となった。欧州が雪崩を打って参加に傾く中、日本はまだ、米国とともに「外」にいる。
 経済力の日中逆転という歴史的転換点にあって、日本は自らの新しい立ち位置を見いだせるのだろうか、さまざまな思考を掻(か)き立ててくれる秀逸な一書だ。
    ◇
 よしおか・けいこ 64年生まれ。朝日新聞北京・上海特派員を経て編集委員。著書に『問答有用』など。

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