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すごい物理学講義 [著]カルロ・ロヴェッリ/ジョルジュ・ペレック―制約と実存 [著]塩塚秀一郎

[評者]円城塔  (作家)

[掲載]2017年07月30日

[ジャンル]文芸 科学・生物

表紙画像

■規則の果てに生まれる独創性

 世の中には法則がある。
 自然法則であれば、自分でつくることはできないから、発見するということになる。理由はわからないなりに、とにかくそうなっている現象を説明しようと試みる。
 二十世紀前半の物理学できわだつのは、相対性理論と量子力学の登場である。
 前者は主に重力を、後者は極微の領域を扱うが、極微の領域における重力を扱おうとすると、どちらの理論もあまりうまくいかなくなる。
 それをなんとかしようというのが量子重力理論であり、超弦理論が有名だが、『すごい物理学講義』の著者ロヴェッリは、その対抗馬、ループ量子重力理論の中心的な研究者である。
 前半で、物理学の考え方を述べつつ、相対性理論と量子力学について手がたく概観を与え、後半で自分の研究について説明するという形になっている。
 この本に書かれているのは、自然法則が発見されてくる過程である。実際、ループ量子重力理論が成功をおさめるかどうかはまだ誰にもわからない。
 失敗するかもしれない理論について知ることの何が面白いのかと問う向きには、教科書だけを読むことのどこが面白いのかたずねたい。
 現実の世界では自然法則が強いとしても、虚構の中ではまた話が別である。小説は特に自由なものであるとされたりする。好きなことを勝手に書いているだけではないか。
 いや意外にそういうことでもない、と法則にこだわった作家に、ジョルジュ・ペレックがいる。たとえば彼の「煙滅」は、アルファベットのeを使わずに書いた小説である(塩塚秀一郎による日本語訳は「い段」を使用していない)。
 『ジョルジュ・ペレック』には、その作品や伝記が見通しよく紹介されている。
 人間は自己評価が不当に高い生き物であり、規則に縛られるのを嫌い、自分のことを独創的だと考えがちだ。しかし、独創的なのはむしろ規則の方ではないのか。
 ペレックは自分の作品に、たとえばeを用いないというような、多くの規則を設ける。奇をてらうのではなく、勝手に与えられている法則の中で何が可能なのかを考え、実験していくためである。現実の世にしたところで、変えようのない自然法則が存在するではないか。
 法則を見つけだすことと、法則の適用をつきつめることは方向性が全く逆だが、この二冊に共通するのは、その果てに見えてくる幻想性とでもいうべきものである。そこには何か笑いのようなものがあり、創造性と密接な関係をもっている。
    ◇
 Carlo Rovelli 56年、イタリア生まれ。仏エクス=マルセイユ大で量子重力理論の研究チームを率いる▽しおつか・しゅういちろう 70年、福岡県生まれ。京都大大学院教授。日仏翻訳文学賞受賞。

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