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アルカイダから古文書を守った図書館員 [著]ジョシュア・ハマー

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2017年07月30日

[ジャンル]文芸 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■荷車や川船で検問抜けた「国宝」

 アルカイダ系イスラム武装勢力がアフリカのマリ北部を支配した2012〜13年、焼損の危機にあった貴重な古文書を救い出したイスラムの現地民の記録だ。
 綱渡りの救出作戦から、恐怖にくじけない民の勇気と情熱が伝わってくる。「本来のイスラムが平和で寛容な宗教」であることがその姿から実感される。本書を読んで、イスラムへの意識が変わった気がした。
 主な舞台は、16世紀ごろにイスラム宗教文化の中心地として栄えた町トンブクトゥ。学者や学生が集った学問の都では、写本が盛んに取引された。収集された膨大な書物が他国の侵略を避けて地下に隠された。本書の主人公アブデル・カデル・ハイダラは1984年から散逸した古文書を地道に集めて、最終的に古文書図書館を設立した人物だ。
 古文書は多彩で、学術書だけでなく、音楽への賛歌、恋愛を至上のものとして謳(うた)い上げた詩など「五〇〇年におよぶ人間的な喜びがあふれている」。異教徒に寛容な態度を示した書簡は「イスラムを『不寛容な宗教』と見る西側の偏見を覆すような書物」だ。だが、過激な武装勢力にとって相いれないものだった。
 武装勢力に占拠されたトンブクトゥから1千キロ離れた首都バマコに数十万冊の古文書を秘密裏に運び出す描写は緊張感に満ちている。ハイダラと仲間は大箱に詰めた古文書をラバの荷車で移した後、有志運転の車、地元民協力の川船で輸送する。武装勢力やマリ軍の検問所をくぐり抜け、邪魔する盗賊にカネを渡す。我々に「国の宝」を守る意識がどれだけあるだろうかとの問いが頭をかすめた。
 フランスが19世紀に植民地支配したころ、フランス人学者らが古文書を盗み出した。その旧宗主国が軍事介入でトンブクトゥから武装勢力を排除したのは罪滅ぼしだったかもしれない。
 マリへの長期取材で、知られざるイスラムの民を見いだした米国人ジャーナリストの力量に感服した。
    ◇
 Joshua Hammer 57年、米ニューヨーク生まれ。独ベルリン拠点のジャーナリスト。16年度、全米雑誌賞。

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